新着情報

わたしの好きな詩

すばらしい詩を読んだ。

もしもあなたがほんとうは
ぜんぶうそだとわかったら
あなたはそのときふきだします

それともふかくすくわれますか

池井昌樹詩集   遺品
もしも    より

折笠 美秋

鬣編集部から折笠美秋氏の句集を贈っていただいた。

堪能して読ませて戴いた。作品のいくつかを紹介したい。

 

北里仰臥滴々/呼辭記  折笠 美秋

・雪明り死者は夢見ることありや

・我れ病みたれば夢にも雪降る妻ならむ

・涙をお拭き 明日へ 雪明かりの妻よ

・雪の妻 泣くのは明日 泣くのは明日

・風あれば風と化し来る春の妻

・薫風と妻に書かせてみたりけり

・花浴びて妻と居りこの今生に

・抱き合いていのち減りゆく夕陽中

・相模野の時雨は死後へ降り続く

・海の蝶最後は波に止まりけり

・淋しくて膨んでみる月下の海

・やさしく溶けよ妻が来る雪帰る雪

・青空を舞い落つ不覚の雪一ひら

・胸中に同じ雪降る妻と我れと

 

・篝火や

 

昨日炎えたる

二人あり

・かなしさや

抱き合うて

地に

落ちる雪

・なお生きて

なお雪に舞う

蝶ふたつ

*

グザヴィエ・ドランの映画から

 

果てしなく暗い闇

わずかな望みも

朽ち果てて

誰にも届かない

心の叫び

ただ神だけが

耳を傾ける

どうしようもなく

深い孤独

抗う力さえ失うほどに

誰にも見えない

涙のしずく

ただ神だけが

指先でぬぐう

永遠に終わらない夜

絶望の海に

取り残されて

誰も知らない傷の痛み

ただ神だけが

手をかざす

険しい山を降りた

あの日

癒された魂

安らぎに身を委ねて

やっとたどり着いた

あの地

解き放された魂

光で満たされて

果てしなく暗い闇

わずかな望みも

朽ち果てて

誰にも届かない

心の叫び

ただ神だけが

耳を傾ける

どうしようもなく

深い孤独

抗う力さえ失うほどに

誰にも見えない

涙のしずく

ただ神だけが

指先でぬぐう

ほんの一瞬で出た

あの部屋

横たえられた

兄弟の亡骸

足早に去った

あの場所

残された思い出の影

果てしなく暗い闇

わずかな望みも

朽ち果てて

誰にも届かない

心の叫び

ただ神だけが

耳を傾ける

どうしようもなく

深い孤独

抗う力さえ失うほどに

誰にも見えない

涙のしずく

ただ神だけが

指先でぬぐう

永遠に終わらない夜

絶望の海に

取り残されて

誰も知らない傷の痛み

ただ神だけが

手をかざす

 

Natural Blues

歌:Moby

訳詞:原田りえ

*

グザヴィエ・ドランの映画から
私の家にはドアがない

私の家には屋根がない

私の家には窓もない

雨が降れば

水浸しになる

私の家には

ドアノブがない

私の家には鍵もない

たとえ奪おうとしても-

何も盗むものはない

家は救いの港じゃない

家 それは…

それは-

深くえぐられた傷痕

私の家には心臓がない

私の家には血管もない

誰かが押し入っても-

見えない血を流すだけ

私の脳には廊下がない

私の壁には皮膚がない

ここで人生を

失うこともある

誰も中にいないから

家は救いの港じゃない

家には横たわる棺もない

家は望みの港じゃない

家には眠りにつく棺もない

家は救いの港じゃない

家 それは…

それは-

深くえぐられた傷痕
Home Is Where It Hurts

歌:Camille

訳詞:原田りえ

*ーある予言者の言葉 カーリル・ジブラン(金関寿夫訳)ーより

互に愛し合うがよい、

だが愛のちぎりなど、

決して結んではいけない。

きみたちの魂の岸辺、

そのあいだに波立つ海を置くのだ。

互に盃を満たし合うがよい、

だが同じ盃から飲んではいけない。

互にパンをわかち合うがよい、

だが同じかたまりから食べてはいけない。

共に歌い、踊り、笑いさざめくがよい、

だが、互にひとりだということを忘れてはいけない。

同じ楽の音に震えてはいても、

琴の糸は、一本ずつ分かれているのだから。

きみたちの心を与え合うがよい、

だが互にそれを我がものにしてはいけない。

共に立つがよい、

だがあまり近寄って立ってはいけない。

寺院の柱は離ればなれに立ち、

樫と杉とは、

互いの影の中に育つことはないのだから。