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5-3. タイル (7)

日本建築において、タイルは即ち瓦ということで、陶磁器が建材として建物の部分を覆うということは屋根しかなかったようです。1つには雨の多い日本の気候では最も効果的に水の侵入を防ぐのに効果的であった一方で、壁に使うにはうまく留める方法が無かったのかもしれないですし、あるいはほかの素材に比べて重くなってしまうので地震の多い日本には構造的に重量が増えることが有利ではないからかもしれません。
仏教伝来当初から寺院建築には瓦屋根を使うという潮流になったようですが、一方で世俗的な建築物の瓦の利用は一時、途絶えていたようです。当時は杮葺きなどの屋根よりも瓦の製作に手がかかったのでしょう。モニュメントとなる寺院のみに瓦が作られましたし、鬼瓦が製作されたのも、そのビルディングタイプとしての象徴性があってのことでしょう。
その後、室町時代には茶の湯の勃興とともに茶釜の下に敷く「敷瓦」が発展しましたが、屋根材を鍋敷きに使う茶の湯の遊び心が、その他の建築物の部位にまで広がって使われるようにはなりませんでした。

5-3. タイル (6)

これまで国外におけるタイルの歴史的な流れを簡単にみてきましたが、日本についてはどうでしょうか。
記録に残っているのは538年に仏教が百済から伝来した時のこと、仏寺を建立するにあたって中国から寺工、画工とともに、瓦博士も同様に送られたという記述が、588年の日本書紀に残っているようです。この瓦博士が日本における初めてのタイルを作ったということになります。瓦とタイルは違うのでは?という疑問が挙がりそうですが、タイルというのは焼物で表面を覆ったものという定義に還れば、瓦もいわばタイルの一種ということになります。ところで、6世紀の時点で瓦が中国から伝来したということは、それ以前の日本建築には瓦屋根が載っていなかったということになります。恐らく茅葺きや杮葺きなど、自然素材をそのまま屋根に載せた簡素なものだったのでしょう。

図5-3-6:飛鳥寺

図5-3-6:飛鳥寺

ちなみに、この日本最初のタイル、瓦で葺かれた建築物は飛鳥時代の飛鳥寺だったそうで、平瓦を敷き詰めて、ジョイント部分に丸瓦を載せるという構成は現在の建物でもみられます。(但し、瓦そのものはオリジナルではありません。)ちなみに日本に現存する最古の瓦といわれるのは、元興寺のものといわれています。

図5-3-7:元興寺

図5-3-7:元興寺

5-3. タイル (5)

現在のウズベキスタンのサマルカンドの中心にあるレギスタン広場は、イスラム的なタイルが大々的に使用された有名な例の1つです。広場には3つの神学校が面しており、それぞれがブルーを基調とした見事なタイルの装飾が建物の表面を覆っています。紺碧の空を背景としたこの建物が、周囲の殺伐とした砂漠の風景の中で聳えています。

図5-3-4:レギスタン広場

図5-3-4:レギスタン広場

図5-3-5:ウルグ・ベク・マドラサ

図5-3-5:ウルグ・ベク・マドラサ

キリスト教世界ではモザイクタイルを使用してイコンの表現をするので、自ずとその画題は一定の枠の中に納めることになります。つまりベースとなる建物の内側、天井のヴォールト部分や軒蛇腹部分など、主にインテリアの部分に対してモザイクタイルの表現が集中されます。一方でイスラム世界の場合は幾何学モチーフのために、そのモチーフを無限定に繰り返すことができるために、建物の部分にとらわれることなく建物の表面全体に広げることができます。そういったこともあり、インテリアを超えて外観までタイルが敷き詰められていると考えることも出来るでしょう。

5-3. タイル (4)

モザイクが強力な象徴作用を見事に活かしたのは初期キリスト教における教会建築です。現在でもイタリア、ラヴェンナに残る4世紀前後の教会建築のインテリアでは、ドーム型やヴォールト型の天井は細かいモザイクによって描かれたキリストのイコンやキリストにまつわる寓話によって覆われていて、外の世界とは全く違うキリスト教の宗教的世界を見事に象徴しています。当時の人々がその教会に入って、美しい光と色の世界に身を置けば、きっとキリストの奇跡を信じることは難しいことでは無かったでしょう。

図5-3-3:ラヴェンナ

図5-3-3:ラヴェンナ

その後、時代が下って中世ゴシック、ルネッサンスなどの時代では、西欧ではモザイクを初めとするタイルによる建築の装飾はあまりみられなくなるように思います。一方で中近東では8世紀頃にイスラム教が起こり、イスラム世界ではタイルを全面的に使用した建築が多く見受けられます。(キリスト教も本来はそうだった筈ですが…、)イスラム教では偶像崇拝が厳格に行われていたために、絵画やモザイクなどで人物像を表象することはありませんでしたが、その反動かどうかは分かりませんが、タイルを全面的に使用した色彩や幾何学の表現が好まれたようです。

5-3. タイル (3)

タイルの歴史を調べてみるとその始まりは諸説あるようですが、いずれの説も紀元前まで遡り、人類とタイルとは有史以来の付き合いだと言えるでしょう。
タイル以前に登場したのは日干し煉瓦で、メソポタミア文明において紀元前7000年頃に存在していたようです。現在でも中近東や北アフリカでは建材として度々使われています。土を固めて天日干しにしただけの日干し煉瓦から、その後タイルに近い、焼き固めた焼成煉瓦がみられます。
一方でタイルは紀元前2650年頃のエジプトのピラミッドに見られるようです。地下廊下に水色をしたタイルが貼られていたようですが、銅を含む砂漠の砂を原料としたタイルだったようです。紀元前7世紀のアッシリアでは様々な彩色が施されたタイルが発見されているようで、その頃には意図的にタイルに色を与える技術が発見されていたのだと思われます。
その後、西欧における文明では、古代ギリシアや古代ローマの遺跡で細かいモザイクタイルを使った建築装飾がみられます。床や天井を単なる面にするのではなく、人や動物を描いたモザイクは建築物の一部を別のものに象徴する作用があると解釈しも良いでしょう。

図5-3-1:コス

図5-3-1:コス

図5-3-2:カルタゴ

図5-3-2:カルタゴ