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5-3. タイル (2)
本稿では広義の意味よりも狭義の素材の意味が加わったものとしての、いわゆる一般的なタイルについて稿を進めたいと思います。吹き付けタイルや屋根に使われる瓦も広義の意味ではタイルですが、オフィスビルに使われることは稀ですのでここでは扱いません。
さて、このタイルの素材は土を固めて焼成し成分が溶け固まって出来上がりますが、土の成分や焼成の温度によって、陶器質、せっ器質あるいは磁器質となります。煉瓦も土を固めて焼いたものですのである意味ではタイルに近い素材かも知れませんが、タイルとの違いは厚みのある煉瓦はそれを積み重ねることによって壁そのものを構成するので、モノを覆うという意味でのタイルではありません。煉瓦タイルというものがありますが、それは厚みをもたせずに壁に貼付けるものなのでタイルということ扱いになります。
何はともあれ、タイルは陶磁器の食器と同じ原理で作られます。つまり一般的にタイルに付けられている色はタイルを焼成する時に釉薬が化学反応を起こして出来るものです。現在では既製品のタイルは安定した色味を出していますが、古いものをみると1つ1つ微妙に違う色合いがあるのが分かります。
5-3. タイル (1)
5. オフィスビルの素材
現代のオフィスビルではタイルと呼ばれる素材は割合色々な場所で使われています。トイレなどの水廻りに使われるのはもちろん、外装に使われることもあります。また、エントランス空間で床や壁に大判のタイルが使われたり、共用部にPタイル、執務空間にタイルカーペットが床に敷かれたりします。一般的にはタイルと言えば、陶磁器質の薄っぺらい素材をタイルとして連想しますが、上述のように実は様々な素材に対してタイルという呼称が付いています。
そもそも英語でいうタイル[tile]というのは、フランス語の[tuile]から伝わった言葉で、元を辿ればラテン語の[tegula]という言葉とのことです。その元々の意味は「焼成粘土によって覆われた屋根」という意味で、それが転じて現在では、様々な形の薄いモノが規則的に表面を覆っている時にそのモノを広義に「タイル」と呼んでいます。つまりいわゆる陶磁器質の素材という意味でのタイルは狭義のタイルであって、広義には素材の縛りはありません。そういう意味でPタイル(=プラスチックタイル)やタイルカーペットという呼称が成立します。
5-2. 石 (9)
最後になりましたが、建築用の石材として最も初めに思いつくのはきっと大理石だと思います。大理石もその成分から石灰岩の部類として類別されるようですが、ライムストーンのような凝灰岩としてではなくて、変成岩のうちの石灰岩と考えて良さそうです。石灰岩がマグマの熱によって変成作用を起こし結晶化したものが大理石である、とのことです。
日本語の大理石という名称は10〜13世紀あたりにチベットあたりにあった大理国に由来し、そこで大理石が多く産出されたからといいます。とはいえ、現在では日本での大理石の生産は多くありませんが、一昔前は日本各地、特に山口県でも大理石を産出していました。
欧米語では大理石はだいたい「マーブル」といった呼ばれ方をしますが、これはトルコにあるマルマラ海から由来しているとのことです。現在では高級建材として珍重されている大理石ですが、西欧の観光地となっている様な古くて著名な建築物の多く(例えばギリシアのパルテノン神殿やローマの遺跡群など)は大理石が全面的に使用されています。イタリアやギリシアなどは火山が多いことを考えてみると、石灰岩が変成作用を受けて生成するということで大理石が多く産出するのだろうと想像出来ます。

図5-2-15:フォロロマーノ
5-2. 石 (8)
ついでの話ですが、フランスと言えばワインの産地です。ぶどうを育てる土壌はワインの味を決める重要なファクターで、とりわけ発泡ワインの高級品であるシャンパンはシャンパーニュ地方の土壌がなくてはならないものです。パリと同様にシャンパーニュ地方、ランスやエペルネーといったシャンパンの生産地の地盤は石灰石の岩盤で出来ています。石灰を多く含んだ土壌は非常に水はけがよく、日照などの条件とともに繊細なぶどうをつくり上げるそうです。
ランスの街の少し外れにPommeryという有名なシャンパンのメーカーの工場があります。表通りからみるときれいな芝が広がり奥に城が垣間見えます。この工場はガイドツアーをやっていて、実際のシャンパンの製造工程を見ることが出来ます。

図5-2-13:Pommery
シャンパンはこのキレイな城の真下、地下のカーブで熟成されています。先述したように地盤は石灰岩の岩盤で出来ていますが、ここもPommeryが来る前は採石場だった場所で地下には石が掘られた後の複雑な大空間が広がっています。岩盤で出来ているために十分に堅牢ですし、石灰岩なのでシャンパンを保存するための温度や湿度の条件が年中安定して整っているとのことです。ちなみに第二次世界大戦中には防空壕としても活用されたとのことです。

図5-2-14:Pommery
5-2. 石 (7)
ところでパリの場合、19世紀までに建物の殆どはライムストーンによるものですが、その大量の石はどこからもたらされたものでしょうか。エジプトのピラミッドの場合は、あの石はナイル川を伝って遠くから運ばれたようですが、一方でパリの場合は古くは地産地消をしていました。実は古代ローマ時代のパリの地下は大きな採石場で、未だにその跡地として大きな迷路が残っており、誰もその地図を描くことはできていないと言います。2004年にニュースになりましたが、アーティストの団体が地下に400人規模の映画館を作っていたことが発覚しました。その後、その団体は霧散してしまったようですが、活動していた人は500人とも1000人ともいわれ、きっと未だに地下に潜んでいることでしょう。ちなみにヴィクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」でジャベールの追手からジャン・バルジャンが地下の下水道を伝って逃げていたのも、このパリの地下ですし、「オペラ座の怪人」がオペラ座から小舟に乗って隠れ家にクリスティンを連れて行くのもこのパリの地下です。現在では14区のカタコンプでこの地下を体験出来るほか、ビュット・ショウモン公園もパリが採石場跡地であることがよく分かる形態をしています。

図5-2-12:parc de butte chaumont