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2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (9)

さてここでようやくルネサンスのオフィスの室内風景に戻ります。
先にみた聖ジェロムの2枚の絵に共通しているのは、壁一面が棚に覆われているということです。現代的な感覚では家具が建物に設えられているということはごく一般的なことですが、当時の家具の位置づけを考えるとこれは一考に値します。というのは、家具というのは建築から独立するものであり、例えば時代は違いますがフランスのブルボン王朝では季節毎にパリのチュイリュリー宮からベルサイユやフォンテーヌブローに移動する際には、家具も一緒に移動するモノでした。当時の建築を見てみると建物に設えられるモノと言えば、アルコーブ状に壁に穿たれた寝台や暖炉(暖炉は建物に設えられざるを得ないですし。)程度のものでした。壁は開口部以外は壁紙やタピスリーで装飾されていました。その事実を顧みると、先の2枚の絵にみられる「壁に設えられた棚」は機能的にもイコンとしても、空間としての「オフィス」を示すものだったと言えるでしょう。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (8)

図2-2-7:st jerome

図2-2-7:st jerome

これも聖ジェロムの絵です。1450年にニッコロ・コラントニオ[Niccolò Colantonio]というイタリア人画家の作品です。
先に聖ジェロムはライオンと伴に描かれるという旨を書きましたが、それはなぜかというとライオンの足に刺さった刺を聖ジェロムが抜いてあげて、それ以来そのライオンは聖ジェロムの側から離れなかったという逸話があるからです。
さて、話を室内風景に戻します。この聖人はローマ時代の後期の人物ですが、描かれているのはルネサンス期です。そこには1000年の差がありますので、当然ですが当時のルネサンスの画家にはこのような室内風景を描くに際してローマ時代の室内は知る良しもありません。この場合には同時代、つまりルネサンス時代の風景が描かれているという理解が通説です。この絵ではあまり判然とはしませんが、建物の外観が背景になっている絵などをみると、それは一目瞭然です。即ちここで描かれている室内風景はローマ時代を描いてはいるものの、実際にはルネサンス時代のものと見ても良いでしょう。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (7)

更に時代を下るとルネサンスの時代です。いわゆる絵画という様な体裁の絵が描かれ、それに伴って描かれている対象(人物など)と共にその背景から当時の色々な情報が読み取れるようになってきますので、オフィスの室内風景を視覚的に探れるようになってきます。

図2-2-6:st jerome

図2-2-6:st jerome

この絵は1442年にヴァン・アイク[Jan Van Eyck]というフランドルの画家のアトリエで描かれた絵です。ルネサンスといっても絵画として描かれるのはやはりギリシア神話かキリスト教がモチーフになるのではないでしょうか。その中でも聖ジェロム[Sainte Jérôme](日本語ではギリシア語名の「ヒエロニムス」が一般的なようです。)はローマ時代後期、4世紀に、初めて聖書をギリシア語からラテン語に翻訳した学者としての聖人なので、書物を持っている図像であったり、このようにオフィスの様な空間にいるところを描かれています。その他のこの聖人の特徴としては、赤い服と丸くて皿をひっくり返した様な帽子を被っていたり、またライオンとともにいるということでしょう。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (6)

これまで[bureau]という言葉から家具の流れを辿りましたが、建築物としてのオフィスをみてみたいと思います。
[officium]からオフィスはローマ時代まで遡ることが出来るとは言ったものの、それを言葉ではなく室内風景として捉えようとするとローマまで遡ることは実は難しいです。視覚的に室内風景を遡ろうとすれば絵画を探るのが主な方法だと思います。ローマの絵画の多くはいわゆるフレスコ画と言われる壁画やモザイク画がありますが、そこで描かれているのはもっぱら神話などをテーマにしたものなので、現代的な意味でのオフィスの風景を描いているものは見当たりません。
引き続き時代を下って中世になると、ヨーロッパは美術的にはキリスト教の時代がやってきます。多くは木の板(祭壇の一部を担う。)に聖人や聖書の内容を描いた宗教画が殆どで、風景画や静物画、風俗画などはなかなかみることができません。あるいは時禱書(*)の中にミニアチュールが描かれていたりもしますが、それも多くは宗教的なワンシーンを描いているものです。

図2-2-5:book of hours

図2-2-5:book of hours

(*時禱書とは中世に多く作成された装飾画本で、多くの挿絵(ミニアチュール)を用いたキリスト教の手引書のような本のこと。)

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (5)

前回までみた机は平らな面がある机の上に斜めの面を作るために別の台を置いた様な家具でした。それを[ecritoire]と呼びます。当初は普通の机の上に置かれていましたが、やがて足元が収納になった家具の上に置くようになります。(それが前回までのJean Miélotの二つの机でした。)そして現在のように、水平面の上で書くための机がみられるのは17世紀のルイ13世の時代になります。

図2-2-4:LouiXIII

図2-2-4:LouiXIII

フレンチオークと呼ばれるオーク材の一種を素材として、机上の奥に引出しがある段々状の形態をしています。ルイ13 世様式と呼ばれるこの机の意匠上の大きな特徴はトルネード状の足と足の繋部で、一目でルイ13世様式であることが分かります。
その後、王様が変われば王宮を変えるように、机のデザインもルイ14世〜16世、各様式が存在し、フランス革命後も皇帝様式など多くの様式が作られていきます。その大きな流れが変わるのは19世紀末から始まる、アールヌーヴォーやアールデコといった芸術運動が家具のデザインも変えていった時期になります。