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7-1. 熱環境 (8)

この物質の圧縮と膨張を利用して温度をコントロールするということが、エアコンの仕組みです。スプレーにおける圧縮されたガスをエアコンの場合は冷媒と呼びますが、室内機において冷媒を一気に膨張、即ち開放させることで室内に冷気を供給します。つまり開放された後の冷媒は気体となり熱(運動エネルギー)を備えた状態です。常に新しい圧縮した冷媒を外から入れるわけにもいきません。気体となっている冷媒は室外機内でコンプレッサーによって圧縮して温度の高い状態、即ち室内機と逆の作用をします。この冷媒をラジエターに通しファンを回すことで熱を室外機の外に排出します。このようにして液体に戻された冷媒を再び室内機に戻すというサイクルを繰り返して冷房を実現します。
また現在のエアコンには除湿機能があります。これは気温が下がれば露点も下がる、つまり結露をさせることによって水分を回収するという仕組みです。上述の冷房のサイクルにおいて室内機で空気を冷やす際に、その空気の湿度は飽和状態になりますので、自ずと除湿もできてしまうわけです。

7-1. 熱環境 (7)

例えば20℃の気体があったとします。分子は自由に動いている状態です。その気体をグッと圧縮したらどうでしょうか?分子は自由に動けなくなりますので、運動エネルギーが小さくなります。エネルギー保存の法則という物理の法則があります。極端に簡単にいえば存在するものは無くならないということでもあるのですが、要するにこの場合には運動エネルギーが減った分は別のエネルギーの状態に変換されるのですが、それが熱エネルギーです。即ち気体の温度は20℃から上昇します。狭いところで激しく分子がぶつかっているところを想像すると、確かに熱くなりそうです。(走っている車にブレーキをかけると摩擦熱が発生しますが、これも運動エネルギーが熱エネルギーに遷移するあり方の1つですね。)
逆の場合の方はこのような体験をしたことはないでしょうか。ペンキや虫除けのスプレーには圧縮したガスが入っています。それを噴射すると容器が冷たくなっています。あれは圧縮したガスが一挙に膨張し、熱エネルギーが失われるため冷たくなるということです。

7-1. 熱環境 (6)

開発当初のエアコンが気化熱を利用したものであったというのは簡単に前述しました。現在利用しているエアコンの仕組みも気化熱は関係しています。一般的に業務用も家庭用も、エアコンには室内機と室内機があります。冷房運転の場合、簡単に言ってしまえば、室内の熱を室内機で吸収し(結果として冷風が出ています)、室外機でその熱を排出するというサイクルです。冷房時の室外機前の熱風を受ける不快さは誰もが経験していることですね。
高校時代の懐かしい物理学の話になりますが、物質には個体/液体/気体という三態があり、分子の状態によってそれぞれの態を遷移します。分子が自由に動いている状態が気体で、緩やかに関係している状態が液体、がっちり結びついている状態が個体というイメージを持てば良いでしょう。その状態と言うのは熱が関係しているというか、熱(あるいはエネルギーと言っても良いでしょうか。)の状態によってその三態が決定されます。例えば気体は分子が自由に動いている状態、即ち運動エネルギーが高い状態で、逆に個体は分子が動いていないので運動エネルギーが小さい、低いとイメージです。

図7-1-2:物質の三態

図7-1-2:物質の三態

7-1. 熱環境 (5)

エアーコンディショニングの技術の始まりは18世紀あたりから、気化熱を利用したものでアルコールやアンモニアなどを気化させるものでした。20世紀初頭に温度とともに湿度も調整できる技術が開発されましたが、鉄などの他の技術と同様に、印刷工場の製造過程を改善するために設計されていました。その後、徐々に建築や自動車などの熱環境を調整するために普及していったようです。先の谷崎潤一郎の文章は1935年のものですから、発明から約30年後には日本の公共空間にも一部は登場していたようです。

図7-1-1:エアコン普及率

図7-1-1:エアコン普及率

とは言え、実際にエアコンが一般家庭への普及が始まったのは1960年代に入ってからのようで、80年代にかけて約半数の世帯がエアコンを使用する程度のペースです。黒澤明の1963年の映画「天国と地獄」では、金持ち社長がエアコンを所有しており、それがある意味で富を象徴しており、それほど家庭には稀なものだったのでしょう。またその頃の映画の夏のシーンを見てみると、ネクタイをせずに開襟シャツを着ていることが多いです。現在では夏場のクールビズの動きが進んでいますが、そもそも夏までネクタイを着用するのは冷房装置の普及がしていった60年代以降ということで、その時分にはエアコンがかなりオフィスの風景を変えたものだと思われます。

7-1. 熱環境 (4)

現代のオフィス空間を想像すると、ほとんどのデスクにパソコンが並んでいるのではないでしょうか?特にデスクトップ型のパソコンは大きな熱源ですし、それがたくさん並べば暖房がなくても冬でもさほど寒くはないかもしれません。逆にエアコンがなければ夏は地獄のようでしょう。
谷崎潤一郎が「旅のいろいろ」というエッセイの中でこのようなことを書いています。
「冬旅行をして困るのは、汽車、汽船、ホテル、旅館、電車、自動車等で、暖房の設備があるものとないものとあり、かつその温度がまちまちであるために、風邪を引き易いことである。…(中略)…尤も、ビルディングの冷房装置でもヤラレることがあるのだから…」
この文章は昭和10年(1935年)7月の文藝春秋が初出だそうで、つまりこの当時には暖房はもちろんですが、一部では冷房装置がすでに建物に導入されており、しかも現在も同じ様に効き過ぎている状態があったということは少々驚きです。
以前の稿で近代の高層ビルを成立させた技術はエレベーターであると言うことを書きましたが、高層階における風の強さや安全性を考えると窓を開けることは困難ですし、そういう意味で空調技術もそのビルディングタイプの成立に一役買っていることは紛れもない事実でしょう。