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8-5. 地区計画・総合設計制度 (16)

とはいえ、容積率と斜線の制限緩和はあくまでもご褒美であり、総合設計の目的はというと大きくは都市環境を整備することにある訳です。1章1−2の基本目標には市街地環境の整備改善、良好な建築・住宅ストックの形成、防災強化、福祉のまちづくり、職住バランス、少子高齢化対応、緑化、低炭素社会など、大雑把にどう転んでも悪くはなさそうな目標が羅列されています。これらの対応策を総合設計の要件の中に盛り込む代わりに、ご褒美である容積率、斜線制限緩和を許可するという理解で良いかと思われます。
引き続いて要綱の中には用語集があり、その中で総合設計の種類が位置づけられています。それらは「一般型総合設計」、「市街地住宅型総合設計」、「共同住宅建替誘導型総合設計」、「都心居住型総合設計」、「業務商業育成型総合設計」の5種類となっています。「一般型総合設計」については特に何かしらのテーマに特化したものではありません。
「市街地住宅型」は「市街地住宅の供給の促進に資することを目的として、…」とありますが、具体的にどのような事例が想定されているのかはここではよくわかりません。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (15)

それでは総合設計制度の具体的な枠組みを俯瞰していきたいと思います。法的な根拠は先述の通り建築基準法に由来し、それに即して国土交通省(旧建設省)から運用についての通達が出ているものの、実際的な業務は東京都内の案件については東京都の管轄となっています。ここでは東京都都市整備局が発行している「東京都総合設計許可要綱」を参考にします。
ところで地区計画は東京都内では市区町村単位で枠組みが決められており、その内容は概ねA3用紙で1〜2枚でまとめられていることが多く、とても簡潔で理解しやすいものがほとんどです。一方でこの「東京都総合設計許可要綱」については、東京都都市整備局のホームページからダウンロードできますがA4用紙で43枚にわたるもので、その枚数に比例してか内容も複雑で一瞥しただけでは性格にフォローするのは難しいものです。ここではその内容を断片的にかい摘んでいきます。

まずは目次を眺めると、
1章、 総則
2章、 計画要件
3章、 計画基準
4章、 容積率制限の緩和
5章、 斜線制限の緩和
6章、 雑則
となっており、一見したところ容積率制限と斜線制限の緩和を目的とした制度であるというのは理解できるかと思います。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (14)

総合設計制度の走りの時分は先述のような団地の開発で絶対高さ制限を緩和するためだけの利用例がいくつかみられていましたが、一方でやはりメインは都心における大規模な超高層ビルの建設のために制度が利用されている例がほとんどです。先の日野の団地が最初の例でしたが、2番目の例は内幸町にある現在のみずほ銀行、当時の第一勧銀の本店ビルで利用されたものでした。ここでは容積率緩和、道路斜線の緩和、隣地斜線の緩和、高度地区の緩和をしており、総合設計制度をフル活用した例と言えるでしょう。
東京とのホームページによると平成26年度4月のまでの累計で709件の総合設計制度利用の建物があるそうです。近年では事務所ビルのみならず、いわゆる高層マンションのための利用がみられますが、事務所ビルを含めて緩和されているのは容積率についてがほとんどです。土地の高度利用を図って収益性をあげていくという開発側の姿勢が現れるシーンです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (13)

さてここでいう「土地の共同化及び大規模化による」合理的な利用というのは現在の総合設計を想定するといまいちピンときませんが、東京都がインターネット上で公開している総合設計プロジェクト一覧の一つ目をみるとその意味が少し分かるような気がします。ちなみにこの条項は1970年に建築基準法に制定されているようです。そして東京都における一つ目のプロジェクトは意外にも都心の再開発ではなくて、昭和51年(1975)11月15日に許可された「日野大久保団地」という日野市における共同住宅のプロジェクトでした。とてもゆったりとした敷地の中にぽつぽつと住棟が並んでいるような典型的な郊外の団地です。ここでは建築基準法の第55条が緩和されているのですが、その内容は第一種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域における絶対高さ制限についてでした。つまり一般的に一種住専の地域では10mの最高高さを超える建物を建ててはならないのですが、ここでは当時の公団の仕様に従って4階建てを建てたいがためだけにこの総合設計制度を利用したとのことです。これが「土地の共同化及び大規模化による」合理的な土地利用ということで、公団モデルの団地を想定していたことが分かります。ただし、そのことによってどの程度メリットがあったのかというと、疑問が残るところですね。誰にも迷惑をかけてはいなさそうなので別に良いのですが…。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (12)

ここまで議論してきた地区計画のように、建築基準法の規制の一部を緩和できる制度がもう一つあります。それが総合設計制度です。地区計画が都市計画法で定められているのに対して、総合設計は建築基準法第59条の2で定められています。法律には各法文に入る前にその内容が示されているのですが、この第59条の2については(敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例)となっていて、要するに空地を十分にとれば容積率などが緩和される特例があるということが一目瞭然です。この条項については、「敷地内に政令で定める空地を有し、…(中略)…市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したもの…(後略)」と本項の目的は地区計画ほどには明確には書いていません。一方で東京都が発行している「東京都総合設計許可要綱」という東京都における実際のこの制度の運用を示している資料には、趣旨として「一定規模以上の敷地面積及び一定割合以上の空地を有する建築計画について、…統一的な基準を設けることにより、建築敷地の共同化及び大規模化による土地の有効かつ合理的な利用の促進並びに公共的な空地空間の確保による市街地環境の整備改善等を図ること目的として創設されたものである。」とあり、ここでは大きく2つの方向性「土地の有効かつ合理的な利用」と「公共的な空地空間の確保」という具体的な内容が示されています。