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オフィスビル経営の基本Ⅲ 経営者個人の課題と専門家の必要性②

2.ノウハウ面での課題

優れた専門家はこの不動産業界での情報、ノウハウ、実績を多く有していますが、だからといってその見解を鵜呑みにするようでは経営者とはいえません。専門家のノウハウを引き出しつつも、最終的には経営責任を有するオーナー様が判断し、その結果を受け入れなければならないからです。オーナー様は専門家を超える気で勉強せねばなりません。
とはいえ、オーナー様が全ての専門分野を研究し尽くし、ノウハウをマスターするには2つの点で課題があります。

1つめは、調査に関するノウハウです。オフィスビル経営の基本Ⅲ 経営者としての心構え⑬で解説した「募集開始日」「現空期間」「下限賃料」「成約情報」などはオーナー様個人が調査するにはハードルが高い情報です。たとえば、下限賃料について本当に正確な情報を得るには、「一部上場企業の関連会社が入居を希望しているとして、いくらまでなら賃料交渉の余地があるか」とずばり聞いてみるしかないのですが、相手にとっては非常に答えにくい内容であり、それも競合ビルのオーナーからの質問であれば正確に答えてくれる可能性は限りなく低いでしょう。この手の問い合わせは誰にでもできるというものではありません。「成約情報」に至っては、業者のなかでもその情報精度にかなりの格差があります。こういった情報を優れた専門家に提出してもらうことは、分析の確度をあげるためにも大切なことであるといえるでしょう。

2つめは、分析に関するノウハウです。募集物件条件表をみても、多数の競合物件の多岐にわたる項目を分析し、そこから順位をつけていく、あるいはそれに基づいて「何をどうすれば更に順位をあげることができるか」について検討していくわけですが、こういった分析を過去にどれだけ真剣に行ったかという数と質が差となります。他の小資本で行える事業であればオーナー様ご自身で試行錯誤を繰り返していくのも有効ですが、不動産経営では失敗をするわけにはいきません。経験を積むまでは優れた専門家による分析結果を聞いておくのも勉強になるでしょう。

オフィスビル経営の基本Ⅲ 経営者個人の課題と専門家の必要性①

経営者個人の課題と専門家の必要性

1.時間的課題

ここまで経営者としての心構えについてお伝えしてきました。これらはオフィスビルを経営するのであれば最低限やっておくべき基本作業となります。たとえ専門家に依頼をする場合であっても一度はご自身でやっておくべきであることに変わりはありません。その専門家からあがってくる情報、分析結果、見解に対して経営者として判断をせねばならないからです。
とはいえ、オーナー様が上記作業を全て自分で行うには2つの点で課題があります。

1つめは、単純にオーナー様の時間の捻出が難しいことが挙げられます。日々の業務を行っているなかで上記作業を完遂するのはなかなかに大変なことです。そうであれば、有限であるオーナー様の時間は、最も重要な「100棟を自分の目で見て回る」ことにあてるべきで、募集物件比較表の情報収集のような作業は専門家に任せたほうが良い場合もあります。

2つめは、不動産市場のリアルタイム性です。オーナー様が上記作業を行うにあたって、一週間ほどの時間をまとめて用意できれば問題ありませんが、現実には日々の業務の空き時間などを利用して作業を進めるパターンが多くなることが推察されます。
不動産市場は日々変動しています。調査に時間をかければかけるほど、過去に調べた情報に不正確なものが混じってきて、それに応じて分析の精度は下がります。角度の高い分析を優先するのであれば、情報収集を専門家に任せるのも方法の一つです。

オフィスビル経営の基本Ⅱ 経営者としての心構え⑭

4.他物件を見ながら自分の物件の条件を考える

これだけ多面的にオフィスを分析、比較すると、自分の物件において妥当な賃料がいくらなのかはおのずから見えてきます。この賃料は条件のうちのひとつの項目としての賃料ではなく、他の条件も含めた、総合的に妥当な賃料です。
企業はオフィスを探す場合、最低限の必要な面積は動かせないものの、それ以外の条件は他の条件との兼ね合いで変更の余地があります。すなわち、企業は賃料だけを見てオフィスを決めているわけではなく、条件を総合的に見て決めているのです。それも他の競合物件との関係で相対的に変動するわけですから、正確な相場というものを把握することはそう簡単なことではありません。
募集物件比較表を作れば、競合物件の条件を全体として比較することができるようになりますので、自分の物件において妥当な賃料を算出しやすくなります。
そうして決定した賃料、募集条件であれば、納得も得られやすくテナントが決まりやすくなることはもちろんですし、賃料値下げの要望にも適切に対応できるようになります。

オフィスビル経営の基本Ⅱ 経営者としての心構え⑬

3.個人では入手困難な情報を調査・記入する

物件広告には記載されておらず、個人のオーナーではやや入手が困難な項目になりますが、付き合いのある仲介会社などをうまく活用して、募集条件比較表を完成させましょう。

①募集開始日、現空期間
募集を開始してから何ヶ月空室が続いているかは、競合物件の値下げの可能性を探るための大きな情報です。空室期間が長い場合、物件広告の賃料より安くする可能性がありますが、調べてみないと分からない情報です。
②下限賃料:値下げ意思
賃金交渉の下限は非常に答えにくい内容で、この問い合わせは誰もができるものではありませんが、仲介会社やオーナーに直接聞くしかありません。優良企業が入居を希望しているとして、いくらまでなら交渉の余地があるのかずばり聞いてみるのです。リアルタイムで変動するオフィス市場でもあり、下限賃料を決めているオーナーは少ないのであくまでアバウトな数字となります。私の長年のリサーチ経験からすると、ここで出てくる賃料はテナントがほぼ決まる目安の賃料であり、実際にはそれより低い賃料で決まるケースが少なくないようです。
③成約情報
具体的には成約賃料、保証金、更新料、償却費などの条件を指します。これらの情報は業者間でもなかなか出回るものではなく、それなりのノウハウ、情報網が必要ですが、厳密に比較しようとしたらこれらの情報は必須です。物件広告に表示されていた数字より低い賃料で成約している例もあるため、実際の成約賃料を知らなければ完全な比較になりません。

オフィスビル経営の基本Ⅱ 経営者としての心構え⑫

2.物件広告等で入手可能な情報を記入する

募集条件比較表の項目の説明に入ります。表の書き込みを始める前に選定した競合物件にNo.を付けて地図に落とし込みましょう。できれば航空地図がよいでしょう。こうすると同じような条件のビルを立地で順位を決める場合に便利ですし、20物件以上のビルの位置が分からなくなることもありません。準備が整ったら記入です。これらは個人のオーナーでも物件広告などから入手可能な情報です。

①順位
オフィスビル経営の基本Ⅱ経営者としての心構え②でご紹介した物件評価書に基づき、順位をつけます。順位は実際の情報の記入過程で変わってくることもあり、決めつけは禁物です。自分のビルを含めて冷静な判断で記入して、最終的な調整も必要です。
②物件名
同エリアに複数のビルを所有しているオーナーは、空室が多いと賃料設定を下げる可能性が高い傾向にあります。「○○第1ビル」とか「田町△△ビル」のように、物件名から同一オーナーかどうかを判断できる場合があります。
③所要時間
途中の道路事情によっては広告記載の時間よりもかかる場合がありますので、最寄り駅から実際に歩いた要時間を記入します。ビル周辺の状況など、見たからこそ分かる情報を入れておくとなお良いでしょう。
④物件広告の情報
オフィスの階数、面積(坪)、竣工年月日、入居可能日、保証金、賃料、管理費、更新料、償却費は物件広告から転載します。OA床や空調の有無、警備体制などの設備についても記載されているものは同様に転載しますが、設備は貸す側にとってマイナス情報は記載されていませんから個別に確認する必要があります。1981年6月1日改正の建築基準法施行令に基づく新耐震基準に適応のビルかどうかもポイントです。微妙な時期の竣工日であれば、建築確認申請日を問い合わせるなど確認が必要です。