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4-15. 間仕切り (3)

現間仕切りはいわば壁の一種ですが壁の分類を考えてみると、外壁/内壁、耐力壁/非耐力壁という2つの水準で壁の特徴を大きく切り分けることが出来るかと思います。このマトリックスで考えれば、間仕切り壁は内壁の非耐力壁という風に考えれば良いでしょう。
元々、柱梁構造の日本建築は大雑把に空間を用意してしまった後に、簡易な壁を建ててスペースを区切るという発想に繋がるとは自然の流れといえるように思います。壁ではありませんが、建具もスライディングの板戸、襖、障子といった日本建築で見られるものは、納まりとしては多くは柱梁と同面でそれらを枠としても使います。壁に穴が穿たれてスウィングドア、窓が取り付く西欧的なあり方とは性格を全く異にします。西欧の建具が壁に取り付くもの、壁に付属するものと考えるなら、日本のこれらスライディング系の建具は独立した可動壁のようなものです。これらは壁ではありませんが、軽快にスペースを区切る役割をしているという意味でやはり間仕切りの1つのあり方です。
これらの建具のあり方をよりライトにした形が屏風だと思われます。「風を屏ぐ(ふせぐ)」ということが言葉の由来だそうで、古く中国の漢の時代には風よけの道具として存在していたようです。日本には7世紀に伝えられて以来、日本の室内装飾の設えとして取り入れられており、狩野永徳を代表として屏風が日本美術の発展のキャンバスとなっています。屏風は一扇(一枚)だけだと倒れてしまうので、いくつかの扇が繋がれて一隻となります。古くは一隻六扇(六曲)が一般的だったようですが、単純なフラットな1枚ではなく複数の扇の組合せであることが、絵を描く際の独特な構図を生み出す源であったということは間違いありません。
ところで屏風は現代日本においても、式典の背景としておかれることが引き続き行われています。有名人が結婚した際の記者会見などでは金屏風が背景に立てられるというのは良く目にする光景です。

4-15. 間仕切り (2)

現代におけるテナントオフィス設計のスタンダードは、建築としてはとにかくスケルトンでオープンなスペースを提供するというものです。そこにテナント企業が入居する際に、それぞれのニーズ、働き方に合わせて間仕切りを初めとした設えをしていきます。建築工事としてはそのように事後的に変更されるプランニングに対応出来る設備的対応がとても重要になってきます。間仕切りで区切られる部屋と空調の吹き出し口が対応出来ている必要があるわけです。電気、情報(LAN)関連で言えば、一般的には床をOAフロアとすればコンセントやLANケーブルを必要な位置から取り出すことは可能で間仕切り壁の位置には殆ど影響しないと考えてよいでしょう。インターネットに関しては無線LANもありますし、電気的な対応は今後ますます技術的には容易となるのではないでしょうか。一方で天井廻りには照明、感知器、空調の吹き出し口、スプリンクラー、放送設備など空気、水、音に関する様々な設備が導入されています。これらは間仕切りの入れ方によっては機能しなくなってしまうので、入居時には適切に対応する必要がありますし、建築時にもよりフレキシブルに対応出来る設計になっていることがテナントオフィスビルとしては重要になってくることでしょう。

4-15. 間仕切り (1)

4. オフィスビルの部分

一般的に日本の場合だとオフィス(あるいはオフィス的な空間)は昔から割合オープンなスペースで、あまり間仕切りがなされるようなイメージはありません。以前に「武士の家計簿」の例を挙げましたが、映画の中でも主人公が働いている場所は大広間のようなところで、そこに多くの人が床座で算盤をはじいていました。
一方で西欧では元々は組積造の壁構造が主な架構の方式だったために、大きな空間はオフィスには用意されておらず、多くは個室程度の大きさに区切られていました。現在でも彼らのオフィスでは日本のオフィスに比べるとオープンになっているというよりも、より個室的な執務空間を目にする機会が多いように思えます。その点は仕事の仕方にも現れるかとは思うのですが、オープンなオフィスでは情報も同僚内でオープンにして、チームで仕事をするのに適しているでしょうし、個室のオフィスでは機密度が高い情報を扱ったり、独りで集中して何かに取り組むという面ではメリットは大きいかと思います。

5-8. コンクリート (20)

最後にコンクリート技術のもう1つの側面として、プレキャストコンクリート(PCa)*を紹介したいと思います。一般的にコンクリートと言えば現場打コンクリートを指します。即ち、建物が造られるその場所に型枠を組んで施工するものです。もちろん様々なメリットはあるのですが、デメリットに注目するとコンクリートが固まるのに時間がかかるので、重層する建物については工事期間に対してコンクリートがクリティカルになってくることや、ある程度リサイクルをするものの木の型枠を利用するのでエコ的にあまり良くはないという点が挙げられます。また条件によっては、品質管理が難しいということもあります。そこで鉄骨などと同じような発想で工場でつくって持ってきてしまうというものがPCaです。
まず設計上の注意としては型枠を繰り返し用いて効率化するために、規格化される必要があります。そうすると木ではなく鉄で型枠を組むことによって森林資源の節約になります。また、工場内で作業をするので外部となる現場と比べて環境が安定し、品質管理が容易です。一般的にはPCaの方が現場打よりもきれいに仕上がります。また現場での作業は組み立てるだけとなるので、準備工に時間を要することになりますが、現地での作業は大幅にペースが上がることになります。
一方で輸送のコストなど別の要素も絡んでくることなので、一概にどちらが良いとは言い切れません。一般的には単位空間が連続するような学校建築などが比較的PCaをつかった構造になじむのではないでしょうか。

図5-8-15:函館みらい大学

図5-8-15:函館みらい大学

5-8. コンクリート (19)

ここまで力学的なコンクリート技術の可能性について考えているのですが、それらはコンクリートの組成からの発想です。ところでコンクリートの建物はそもそも自重が重いという特徴があります。2,400kg/m3です。ところで鉄は7874kg/m3ですからコンクリートよりも重いですが、そもそも断面積を小さくしているために長さあたりの容積を減らしているという特徴があります。建築に使われる主な梁材料としてH鋼を使っているのは、鉛直方向の荷重に対して、H鋼の形状が重さあたりの強度という点において優れているからです。(以前に「鉄」の稿でも多少述べています。)つまりコンクリートにおいても同様の発想が出来るのではないか、ということで考えられているのが「ヴォイドスラブ」というものです。

図5-8-14:ヴォイドスラブ

図5-8-14:ヴォイドスラブ

上の写真はコンクリートが打設される前の状況ですが、このように発泡スチロールの球体を並べることによって、断面的に中空の状態にします。そうするとその部分で考えてみればいわば鉄骨と同様にHのような形状が並ぶことになり、スラブ全てが梁として力学的に考えられるということです。一般的には梁の上にスラブが乗るという格好になり、梁が室内にでてしまいますが、この工法ならばスラブ全体の厚みは増しますが、一方で部分的に梁によって天井高が下げられるということが無くなってきます。
このようにコンクリートを型枠に流すという施工方法から、ある程度自由に形状をコントロール出来るのがコンクリートの特徴なので、力学的に有利な断面形状をつくるというのがコンクリート技術の1つの可能性でもあります。先般に紹介した、HPシェルなどもその一例です。