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2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (7)

更に時代を下るとルネサンスの時代です。いわゆる絵画という様な体裁の絵が描かれ、それに伴って描かれている対象(人物など)と共にその背景から当時の色々な情報が読み取れるようになってきますので、オフィスの室内風景を視覚的に探れるようになってきます。

図2-2-6:st jerome

図2-2-6:st jerome

この絵は1442年にヴァン・アイク[Jan Van Eyck]というフランドルの画家のアトリエで描かれた絵です。ルネサンスといっても絵画として描かれるのはやはりギリシア神話かキリスト教がモチーフになるのではないでしょうか。その中でも聖ジェロム[Sainte Jérôme](日本語ではギリシア語名の「ヒエロニムス」が一般的なようです。)はローマ時代後期、4世紀に、初めて聖書をギリシア語からラテン語に翻訳した学者としての聖人なので、書物を持っている図像であったり、このようにオフィスの様な空間にいるところを描かれています。その他のこの聖人の特徴としては、赤い服と丸くて皿をひっくり返した様な帽子を被っていたり、またライオンとともにいるということでしょう。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (6)

これまで[bureau]という言葉から家具の流れを辿りましたが、建築物としてのオフィスをみてみたいと思います。
[officium]からオフィスはローマ時代まで遡ることが出来るとは言ったものの、それを言葉ではなく室内風景として捉えようとするとローマまで遡ることは実は難しいです。視覚的に室内風景を遡ろうとすれば絵画を探るのが主な方法だと思います。ローマの絵画の多くはいわゆるフレスコ画と言われる壁画やモザイク画がありますが、そこで描かれているのはもっぱら神話などをテーマにしたものなので、現代的な意味でのオフィスの風景を描いているものは見当たりません。
引き続き時代を下って中世になると、ヨーロッパは美術的にはキリスト教の時代がやってきます。多くは木の板(祭壇の一部を担う。)に聖人や聖書の内容を描いた宗教画が殆どで、風景画や静物画、風俗画などはなかなかみることができません。あるいは時禱書(*)の中にミニアチュールが描かれていたりもしますが、それも多くは宗教的なワンシーンを描いているものです。

図2-2-5:book of hours

図2-2-5:book of hours

(*時禱書とは中世に多く作成された装飾画本で、多くの挿絵(ミニアチュール)を用いたキリスト教の手引書のような本のこと。)

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (5)

前回までみた机は平らな面がある机の上に斜めの面を作るために別の台を置いた様な家具でした。それを[ecritoire]と呼びます。当初は普通の机の上に置かれていましたが、やがて足元が収納になった家具の上に置くようになります。(それが前回までのJean Miélotの二つの机でした。)そして現在のように、水平面の上で書くための机がみられるのは17世紀のルイ13世の時代になります。

図2-2-4:LouiXIII

図2-2-4:LouiXIII

フレンチオークと呼ばれるオーク材の一種を素材として、机上の奥に引出しがある段々状の形態をしています。ルイ13 世様式と呼ばれるこの机の意匠上の大きな特徴はトルネード状の足と足の繋部で、一目でルイ13世様式であることが分かります。
その後、王様が変われば王宮を変えるように、机のデザインもルイ14世〜16世、各様式が存在し、フランス革命後も皇帝様式など多くの様式が作られていきます。その大きな流れが変わるのは19世紀末から始まる、アールヌーヴォーやアールデコといった芸術運動が家具のデザインも変えていった時期になります。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (4)

もう1点Jean Miélotが机に向かっている姿を描いた絵があります。

図2-2-3:Escribano

図2-2-3:Escribano

こちらの絵も同様に斜めの面に巻物状の紙をひっかけて作業をしている様子です。Jean Miélotが書いている紙の上には開かれた本がありますが、これは彼が写本をしているということを示しているものでしょう。先述の通り印刷技術がない時代ですから、本は全て写本によって製作されていたのですね。またこの机の場合には、机が建物の模造として作られていることも目を引きます。教会のインテリアなどにもみられますが、家具や室内装飾などが建築のミニチュアとして製作されることは当時にはよくあることだったので、その1つだと思われます。
室内の様子に目を移すと、床はフローリングのような細長い素材が張られ、壁際には腰くらいの高さの収納家具でしょうか。下段は開戸付きの収納になっており、中にも本が入っている様です。上部は本が開いて置ける様になっています。前回の絵もそうですが複数の本を同時に開けるようになっているのが、当時のオフィス環境の特徴と言っても良いでしょうか。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (3)

そこで家具としての[bureau]を少し考察してみたいと思います。
ラテン語源[burellum]という言葉は、中世に古いフランス語の[burel]や[bure]という言葉に転じたようです。そして現在も使われている[bureau]に変遷します。
その時代の実際の事務机は残ってはいませんが、少し下った15世紀後半の絵に描かれています。

図2-2-1:bureau ancien

図2-2-1:bureau ancien

描かれているのはJean Miélotという人で、現在のベルギー、当時はブルゴーニュ公国領で主に翻訳家として活動しました。当時は未だ印刷技術が発明されていませんので、本といえば[manuscript]と呼ばれる手書きのもので、テクストと共に多くの絵や装飾が描かれ、本自体も大変貴重な物として扱われて、彫金などで装飾されていました。

図2-2-2:manuscript

図2-2-2:manuscript

このような本を製作するための机[bureau]ということを前提にして考えると、Jean Miélotが向かっている机の形態が よく理解できます。現在の水平な面がある机ではなくて、その上に書くための面としての台が斜めに傾くように据え付け られています。その斜め面にはいくつかの穴が空いてあり、ペンを差したりインクを入れたりす るのでしょう。ただ文字を書くだけならば現在のような水平面のある机で良いのでしょうが、絵を描くようなものなの でイーゼルに近いつくりになっていたのでしょう。