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2-3. 近代/ビルディングタイプ (7)

ところが当時の建築家たちは、新たな公共的な建物の設計を依頼されても困ります。なぜなら今までにそんなものは存在しませんでしたから、参照する例がありません。あるいは場合によると全く困らなかったかも知れません、建築物はかくあるべきという思いがあるでしょうから。つまり駅であれば、建物のファサード(大雑把に言えば、外観)には従来通りのデザインを割り当てておいて、実際に駅として重要な部分と思われる蒸気機関車を迎え入れるホームなどの空間には、汽車が吐き出す煙がこもらない様な大空間を別に用意することで、お茶を濁したと言えるでしょう。

図2-3-5:リヨン駅外観

図2-3-5:リヨン駅外観

図2-3-6:リヨン駅内観

図2-3-6:リヨン駅内観

ここで話がそれますが、19世紀中頃から鉄を構造材料に使用した建築物が徐々にみられ始めます。鉄は先史より存在していますが、産業革命を期に製鉄に木炭を利用していたものが、石炭が利用できるようになりました。それと関連して、それまでは銑鉄という鉄中の炭素成分が多く脆い鉄から、錬鉄という強い鉄を石炭による高温の炉で製造することが可能になりました。

2-3. 近代/ビルディングタイプ (6)

絵画史などと同じように、建築史において時間と場所の流れを追って、様式の流れをみることは1つの前提です。西洋建築史の場合、エジプトやギリシアに始まり、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロック、ロココという一連の流れです。ところがこの流れは18世紀末で滞ります。19世紀に入ると歴史主義と呼ばれるネオ・クラシシズム(新しい・古典主義)やネオ・ゴシックといった様々な様式が入り乱れる時代となります。先に述べたように、産業革命やフランス革命といった政治体制の変化など、18世紀末の社会の変革は建築にも近代化する必要を迫りましたが、この時は路頭に迷っている状態と言えます。建築史においては度々、暗黒の時代として語られます。なぜそうなってしまったかと言えば、それまでの「建築」は、ビルディング・タイプでいえば宮殿であり、教会であり、貴族の邸宅だったからです。それが産業革命が起こり鉄道が走るようになれば駅舎が必要になりますし、市民のための美術館なり図書館なり、公共的な建築物が要求されたわけです。

図2-3-4:パリ市庁舎

図2-3-4:パリ市庁舎

2-3. 近代/ビルディングタイプ (5)

日本における近代は明治以降といわれていますが、西洋におけるそれは産業革命やフランス革命が1つの時代の区切りとして扱われています。(余談ですがフランスの美術史では近代[moderne]はルネサンス以降です。)そのような区切り方がされている理由は、1つには封建社会から市民社会に体制がシフトしたことです。社会の主役が市民になったことで新しい建築のビルディング・タイプが必要となってきました。
美術館を例えにすると、長い間王侯貴族は美術品を収集し、一部上流階級の人たちの間のみでそれらを鑑賞できれば良かったものが、フランス革命以降を啓蒙思想の広まりもあり、市民も平等にそれら美術品を鑑賞できるような要求が出てきました。その要求に応える形でかつて宮殿として使われていたルーブル宮は、美術館として利用されることになりました。元々、宮殿として使われていたものですから、当然個室が並列的に繋がっていくような空間構成となっています。現在も美術館の典型と言えば、展示室が一方通行の動線に沿って並ぶものですが、それは元来は宮殿を再利用して美術館と言うビルディング・タイプが成立したという名残と言えましょう。

2-3. 近代/ビルディングタイプ (4)

2-1、2-2で近世までのオフィスについて記事を書きました。そこで資料として挙げていたのは主に絵画で、かつインテリアとしての空間についてでした。というのは、それまでは現代にみられる様なオフィスビルというビルディング・タイプは成立していなくて、オフィスというのは建物の一部を占める部屋だったからです。つまり宮殿なり城、商店なり、その他のビルディング・タイプの一部として存在していたものであって、主としてオフィスが建物全体を占める様な建築の型は存在していなかったと言えます。これは一般的な建築史を振り返ってもそうですし、例えばみなさんがヨーロッパに旅行に行って、見学に訪れる建物を思い返してみれば分かるかと思います。日本と比べるとヨーロッパには近代以前の建物が多く残っていますが、パリで考えればノートルダム寺院などの宗教建築やルーブル美術館、ベルサイユ宮殿など、元々は王侯貴族の建物ばかりです。(宮殿は貴族の生活の場であると同時に、執務の場であり、社交の場でもある多様な用途を包含したビルディング・タイプでした。)

図2-3-3:ルーブル美術館

図2-3-3:ルーブル美術館

2-3. 近代/ビルディングタイプ (3)

このように「用途」との対応で建築の形式が限定されており、それを「ビルディング・タイプ」と呼んでいるということです。
そこで(単なる「オフィス」ではなく)オフィスビルという建物も1つのビルディング・タイプであることも察しがつくかと思います。

図2-3-2:オフィスビル基準階

図2-3-2:オフィスビル基準階

現代のオフィスビルの形式を記述するならば、1階とその他の階(基準階と呼ばれる)に分けられ、基準階は執務空間である事務室とその他サービス・スペースに分けられる。サービス・スペースにはトイレ、給湯などの水廻りがあり、エレベーターやエレベーター・ホールがあります。平面の大きなオフィスビルだと休憩室や更衣室などもあるでしょう。それが基準階ではシンプルに積み上げられているのが一般的です。1階にも事務室があることもありますが、それとは別に建物としてのエントランスホールがあり、管理人室や郵便受け、受付があったりもします。これがオフィスビルの典型でしょうが、このような典型が出来てきた背景を近代に探ってみます。