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8-5. 地区計画・総合設計制度 (8)

以上の都市計画法第12条の5を基本的な枠組みとして、法第12条の6〜11において先述した地区計画の特例的な活用というものが位置づけられています。法的な枠組みとしては大雑把には以上のような感じです。
では実際のところ、地区計画はどの程度活用されているのでしょうか。東京都都市計画局のHPをみてみると、これまで述べてきた地区計画については都内において、地区数が793地区、地区の面積としては15,924haとなっています。東京都全体の面積が219,000haなので実に7%の割合で地区計画がかかっている計算になります。都内に住んでいる方は自宅が地区計画区域内である可能性も十分にある訳です。
一方、この793地区の内訳を見てみると、721地区が地区計画、72地区が「再開発等促進区を定める地区計画」で、721のいわゆる普通の地区計画の中でも602が「一般的な活用」と呼ばれる法第12条の5で位置づけられている地区で、11,000haを占めています。この枠組みは建物を建築する際には建築基準法の規制(集団規定について)からさらに条件を厳しくすることで、その地区の都市環境を良好な状態に保とうというものです。そういう意味ではディベロッパーなど、経済的に不動産の活用をしようとしている方にとってはありがたくない規制でしょうが、実際にそこに住む住人にとっては環境が保持されるということで地区計画をうまく活用できるようにするとよいでしょう。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (7)

地区計画については、都市計画法12条の四において、
「第12条の四 都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる計画を定めることができる。
一  地区計画
…(中略)…
2 地区計画等については、都市計画に、地区計画等の種類、名称、位置及び区域を定めるものとするとともに、区域の面積その他の政令で定める事項を定めるよう努めるものとする。 」
というように、地区計画が都市計画区域の1種であることが位置づけられています。上記で中略としたものは、防災整備地区、歴史的風致維持向上地区、沿道地区といったものです。
続いて、第12条の五を地区計画として、「建築物の建築形態、公共施設その他の施設の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、開発し、及び保全するための計画」を策定するための文言が並んでいます。1項から8項まであるのでこの場で全てをフォローはしませんが、建築については「地区整備計画」の位置づけの下で7項において、配置、規模、用途制限、容積率、建蔽率、敷地面積の最低限度、壁面位置の制限、工作物、高さの最高限度又は最低限度、形態または色彩その他意匠の制限、緑化率の最低限度を定める異が出来るとしています。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (6)

ここまで紹介してきた地区計画の法的要件を整理したいと思います。まず地区計画が法的に位置づけられているのは建築基準法ではなくて、都市計画法となっています。元々、建築基準法では与えられた用途地域、その中で位置づけられる建ぺい率や容積率、建物の高さなどについてどのような形でフォローしなければならないかを示しているのであり、それぞれの数値等を具体的に示す内容は建築基準法内では述べられていません。実際には都市計画法を基にして、都市計画区域が行政によって策定されています。そういう意味で地区計画は建築基準法の内容を読み替えるようなものではなくて、各用途地域内で位置づけられている数値をある一定の条件にします、あるいは一定の条件を緩和します、といった内容が示されています。
建築基準法では建物自身の安全性や衛生についての規定と当該建物を含めた周辺の建物や場所との関係の中で定められている規定があります。前者が単体規定と呼ばれるもので、構造、採光・通風といった居住性能、防火、避難といった内容がそれにあたります。一方で用途規制、斜線や絶対高さなどの高さ制限、容積や建蔽率といった建物規模に関する制限や接道義務などの道路と敷地の関係に関する規定など、建物とそれ以外の関係から規定される制限があり、それらを集団規定と呼びます。後者の集団規定に関しては都市計画法との兼ね合いもあり、具体的には地区計画は都市計画法の中で謳われて、その関連の中で基準法をベースにして実際の運用がなされるということになっています。

初めに選ばれる建築設計Ⅰ 建築設計業務の内容⑥

基本計画の実例紹介①

基本計画の具体例として、渋谷駅正面、センター街に面する敷地での商業施設の例を挙げてみましょう。当然ですが、渋谷のセンター街は商業施設としては日本でもトップレベルの価値を有する立地です。その経済的効果を最大限発揮できるよう、空間を最大限利用できる基本計画が求められます。

現地調査、法的調査を行うと、用途地は南側に凹凸があり南北に長い敷地で、間口の狭い形状です。
指定容積率を調べると800%ありましたが、前面道路が10mでしたので許容容積率は600%となってしまいます。用途地域は商業地域なので隣地斜線は厳しくありませんが、10m幅の前面道路からの斜線で建物高さが決まってしまうからです。
矩形に近い敷地形状から、天空率による斜線制限の緩和は使えないと判断して、セットバック距離と建物高さ、それによって活用出来る容積率を最大化するように検討します。
この結果、商業地であることから地下1階も活用しつつ、3.5mのセットバックをとることによって地上7階まで建てられることを確認しました。
この段階での検討資料は次のようなものになります。

基本計画の実例紹介①

8-5. 地区計画・総合設計制度 (5)

また東京都内で1ヶ所のみ位置づけられている「立体道路制度」を使った地区計画は、目黒区にある首都高速道路の大橋ジャンクションにおいて位置づけられています。

図8-5-2:大橋ジャンクション

図8-5-2:大橋ジャンクション

高速道路の螺旋状のルートを屋根で覆ってしまって、周辺を含めて緑地とするのと住宅のタワーを併設、低層部に公益施設を誘導するというものです。大学の設計課題などではこのような道路と建築が一体となったような計画というのは度々学生からの提案で出されますが、実際に実現するには法的に非常に難しい問題ではありました。その点、このような地区計画を利用することによって、弾力的に都市のデザインを変えていこうとする試みは評価出来るものではないでしょうか。ただし、基本的には建物部分と車の動線となるループの部分は互いに独立していて住宅はどこにでもある高層のタワーとなってしまっているのはデザイン的には残念です。ここでもディベロッパー的なマーケットへの視点が強く意識されたのだと思います。分譲販売を前提とするとどうしても保守的なモノのあり方になってしまいますので、このような公共性の高い建物、場所については公的な性格の強い建物にして、建築的な挑戦を試みた方が都市の魅力となるのではないでしょうか。