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5-3. タイル (9)

現在では日本国内はもちろん、タイルといえばイタリアの建材メーカーが多様な商品を出しています。その種類は本当に多様ですが、いくつかの水準で分類することが考えられます。
用途による分類としては、内装用か外装用か、また壁用か床用かというところで大きく分かれます。外装だと当然雨がかかりますので、撥水性が問題になります。また、床に敷くタイルは滑って転倒する恐れがありますので、滑り抵抗値の高いタイルが使われる必要があるでしょう。内装用でも特に水廻りに使われる場合だと、外装のように吸水しないものを選ぶ必要がありますし、濡れた床は特に滑りますので特に注意が必要になってくるでしょう。
タイル自体の質による分類もあります。磁器質、せっ器質、陶器質、土器質の4種類が考えられます。基本的には焼物の分類と同じで、磁器質は焼成温度が高く、表面が非常に緻密で硬く、吸水性が殆どありません。叩くと高い金属の様な音がします。陶器質は焼成温度が1000℃程度で、表面が多孔質で吸水性が高いものです。多くは表面に釉薬をかけることによって、意匠性を高め、吸水性を下げることによってタイルとしての品質を確保しています。磁器質と陶器質の中間的なものがせっ器質、陶器質よりも素地が荒く、焼成温度が低いものが土器質です。

5-3. タイル (8)

日本で、現在のいわゆるタイルが使われるようになったのは、明治時代になって洋館が建てられるようになってからだと言われています。以前にトイレの稿でも書きましたが、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』の文庫本にまとめられている「陰翳礼賛」あるいは「厠のいろいろ」というエッセイの中で、日本の厠と西洋のトイレを対比的に書いてある箇所があり、西洋のトイレについては、白い室内における白い衛生陶器の風情の無さ云々、という旨が書かれています。衛生陶器そのものもさることながら、恐らく水廻りにおける白いタイルというものもまさに西欧建築の1つのアイコンだったことが伺える一節です。
いずれにせよ日本におけるタイルの受容は、水廻りのための内装仕上げ材というかたちであったと思われます。国外ではリビングやダイニング、寝室など場所を問わずタイルが積極的に使われているのとは対照的に、未だに日本では水廻りでの仕様が主であるようです。これは日本の生活習慣に一因がありそうです。玄関で下履きを脱いで裸足で歩くのに冬のタイルの冷やっとした感じはあまり良いものではありません。今では室内ではスリッパを履いて生活するのも一般的で、そうすると室内のタイル張りも悪くないように思えますが、やはりタイルを受容した頃の習慣は未だに残っているような印象です。

5-3. タイル (7)

日本建築において、タイルは即ち瓦ということで、陶磁器が建材として建物の部分を覆うということは屋根しかなかったようです。1つには雨の多い日本の気候では最も効果的に水の侵入を防ぐのに効果的であった一方で、壁に使うにはうまく留める方法が無かったのかもしれないですし、あるいはほかの素材に比べて重くなってしまうので地震の多い日本には構造的に重量が増えることが有利ではないからかもしれません。
仏教伝来当初から寺院建築には瓦屋根を使うという潮流になったようですが、一方で世俗的な建築物の瓦の利用は一時、途絶えていたようです。当時は杮葺きなどの屋根よりも瓦の製作に手がかかったのでしょう。モニュメントとなる寺院のみに瓦が作られましたし、鬼瓦が製作されたのも、そのビルディングタイプとしての象徴性があってのことでしょう。
その後、室町時代には茶の湯の勃興とともに茶釜の下に敷く「敷瓦」が発展しましたが、屋根材を鍋敷きに使う茶の湯の遊び心が、その他の建築物の部位にまで広がって使われるようにはなりませんでした。

5-3. タイル (6)

これまで国外におけるタイルの歴史的な流れを簡単にみてきましたが、日本についてはどうでしょうか。
記録に残っているのは538年に仏教が百済から伝来した時のこと、仏寺を建立するにあたって中国から寺工、画工とともに、瓦博士も同様に送られたという記述が、588年の日本書紀に残っているようです。この瓦博士が日本における初めてのタイルを作ったということになります。瓦とタイルは違うのでは?という疑問が挙がりそうですが、タイルというのは焼物で表面を覆ったものという定義に還れば、瓦もいわばタイルの一種ということになります。ところで、6世紀の時点で瓦が中国から伝来したということは、それ以前の日本建築には瓦屋根が載っていなかったということになります。恐らく茅葺きや杮葺きなど、自然素材をそのまま屋根に載せた簡素なものだったのでしょう。

図5-3-6:飛鳥寺

図5-3-6:飛鳥寺

ちなみに、この日本最初のタイル、瓦で葺かれた建築物は飛鳥時代の飛鳥寺だったそうで、平瓦を敷き詰めて、ジョイント部分に丸瓦を載せるという構成は現在の建物でもみられます。(但し、瓦そのものはオリジナルではありません。)ちなみに日本に現存する最古の瓦といわれるのは、元興寺のものといわれています。

図5-3-7:元興寺

図5-3-7:元興寺

5-3. タイル (5)

現在のウズベキスタンのサマルカンドの中心にあるレギスタン広場は、イスラム的なタイルが大々的に使用された有名な例の1つです。広場には3つの神学校が面しており、それぞれがブルーを基調とした見事なタイルの装飾が建物の表面を覆っています。紺碧の空を背景としたこの建物が、周囲の殺伐とした砂漠の風景の中で聳えています。

図5-3-4:レギスタン広場

図5-3-4:レギスタン広場

図5-3-5:ウルグ・ベク・マドラサ

図5-3-5:ウルグ・ベク・マドラサ

キリスト教世界ではモザイクタイルを使用してイコンの表現をするので、自ずとその画題は一定の枠の中に納めることになります。つまりベースとなる建物の内側、天井のヴォールト部分や軒蛇腹部分など、主にインテリアの部分に対してモザイクタイルの表現が集中されます。一方でイスラム世界の場合は幾何学モチーフのために、そのモチーフを無限定に繰り返すことができるために、建物の部分にとらわれることなく建物の表面全体に広げることができます。そういったこともあり、インテリアを超えて外観までタイルが敷き詰められていると考えることも出来るでしょう。