4-10. アトリウム (4)

現代では目にすることのあるアトリウムという場所ですが、前回の修道院の例をアトリウムでないとすれば、初期キリスト教以来、アトリウムはしばらくその存在は忘れられていたのかもしれません。しかし、産業革命が起こり、鉄とガラスが博覧会建築をきっかけとして一般建築にも使用されるようになってきた19世紀、中庭のような大空間をガラス屋根で覆うということがなされるようになりました。先述の通り、ポンペイの発掘が18世紀に始まっていますから、その頃には間違いなく古代ローマの意味でのアトリウムという場所の認識はできていたでしょう。このガラス屋根のインテリア空間に対する名前として、古代ローマの「アトリウム」という言葉が空間的にも用途的にも近いのではないかということで充てがわれたのではないでしょうか。

図4-10-5:Helifax Town Hall

図4-10-5:Helifax Town Hall

現代の日本では例えばwikipediaには「ガラスやアクリルパネルなど光を通す材質の屋根で覆われた大規模な空間のこと」と定義されており、古代ローマの時の応接的な用途や中庭であることなどは定義の枠組みから外れ、「ガラス屋根の大空間」というのが一義的になってきているようです。一方でエントランス空間の1つの形式であるという認識は残っているようにも思います。

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