4-10. アトリウム (5)

さてここで現代日本のアトリウムに戻りたいと思います。冒頭にも書きましたが、都心における大型再開発がなされた場合に、このアトリウムはクリシェ化していると言っても過言ではないでしょう。また逆に大型の再開発以外でアトリウムという建築言語を用いるのはごく一部の例ではないでしょうか。この原因は偏に制度上の枠組みにあるといっても良いでしょう。
建築基準法上には総合設計制度という容積率を割り増しすることができる制度が謳われています。容積率の割り増しは不動産投資としては非常に大きなメリットとなりますが、一方で公開空地という一般の人々が敷地内に入れるような空地を公に公開して、良好な市街地形成に貢献するといったことが条件となっています。この総合設計制度においてアトリウムが公開空地の1つとして位置づけられています。大型の再開発の場合は低層部に商業施設を併せて配置するのは常套手段ですから、セキュリティ上、外部の人も入れることを前提となっている商業施設とアトリウムをセットにして敷地内に配置することで、再開発において高層部分の容積率を稼いでいるという仕組みです。
このアトリウムと商業施設のセットは制度上の要請から一義的に決まってきている部分もあり、本来的にそれが良好な市街地形成に寄与しているかどうかというところは怪しい点ではあります。また、古代ローマから存在するアトリウムの空間的な価値も制度から離れたところで再考させられるような建築作品があれば良いな、と筆者は個人的に考えています。

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