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富士山のバイト

富士山の八合目で2週間、アルバイトをしたことがあります。山小屋の番頭さんと言うか、何でもやる雑役夫です。5,6人いました。五合目までは車で来られるので、生活必需品だとか販売するものを取りに行って担いで来るわけです。醤油だとか味噌とか、コーラだとか。水は氷を切ってきて、屋根の上にある原始的な浄化装置に入れて、溶かして飲むんですね。醤油だとか味噌だとか、重いものをもって来るのは楽なんですよ。軽いものをもって来る時は怖い、風で飛ばされちゃうから。軽いと自分の体重しかないのに、風は体以外のところで受けるから、もってかれちゃうんですよ。

あと、そういうのを仕事でやっているプロの連中はすごくゆっくり登るんですよ。だから何十キロの荷物を担いででも登れる。でも山登りに来た人たちはゆっくり登れないんですよね、早くなっちゃう。そのペースが分からないから、ダウンしちゃう。

帰りは早い。3時間かけて登ったところを、30分で降りられます。砂の沢のところを行くんですよ。そうすると、一歩が5mくらいいくから、ずるずるーっとね。(笑)

葬式のはなし

身近な人間の葬式というと、私が25歳の時に親友が銀座8丁目のビルの屋上から飛び降りて死んだのが最初でした。その時に葬式とは彼を失って悲しいと思う人が集まることなんだと思いました。

あと悲しいなと思ったのは母方のおばあさんが死んだ時でした。おばあさんとは小さな頃からずっと一緒に暮らしていたから。ずっと一緒だったから、おばあさんに育てられた部分がかなりあります。おばあさんはリウマチで骨が曲がって動けなくなって、赤十字の病院に入院していたけれど、何年かして亡くなりました。その時には死んだ顔を見に行って、葬式には出なかった。私は生きているうちにはきちんと付き合ったから、葬式は出なくていいでしょう。ちゃんと付き合わなかった人だけ出ればいいってね。(笑)

できることなら家族の葬式には出たくないですね。

夢のはなし

 詩をやっていた学生の頃は、夢の中で同じ文章を考えているんですね。眠っている時と起きている時の境がないんですよ。ここどうもおかしいなと思うところを、夢の中で全く同じことを考えているんですよ。商売もそうだけれど、考えている時は夢の中で全く同じことを考えるのだけれど、嫌ですね。詩のことを考えているか、彼女のことを考えているか、本を読んでいるかだけ、これしかありませんでしたね。夢は詩を書いている夢かと彼女の夢でしたね。

 商売の夢だと、夢の中で数字が出てきて、それが現実の数字と全部同じだっていうことがあって、目覚めてからなんだか鬱陶しくなって、侘しくなってくるね。(笑)

ヨットのはなし

最初に乗った船は32,33歳の頃かな、36フィートの木造船で横浜から横須賀まで行きました。

帰りにちょうど5mくらいのちょっと上り気味の横風が吹いて、そこで帆をフルセイルにしてエンジンを切ったわけです。そうすると、すごく気持ちがいいんですね。今ここで、空調の音が聞こえるでしょ、それは文明の音です。自然のリズムじゃなくて、文明のリズムです。どこにいても文明のリズムがないところはないですよね。ところがヨットでエンジンを切るとそれが全部消えるんですよ。風とか波のリズムだけが残る。

それでしびれちゃった。しびれて、すぐに衝動買いしちゃいました。信用金庫に5年間の月賦払いを申し込んでね。買ったのは26フィート、よく乗ったね。

エネルギーと死

?往々にして、仕事が日常化、ルーティン化して感性が鈍くなっていくのはよくあることだとは思うのですが、佐々木さんはどのようにしてそれに陥らないようにしていますか?

僕はドキドキしたいわけです。死んだようにフーゥとして、引きこもって、寝ているのも好きなんだけれど(笑)若いうちは良いんだけれど。例えば僕が18の頃は夕方に目が覚めて、明け方から眠っていた時期を1年間続けたわけです。でもそれでムクムクっとパワーがでてきて、それが10年くらい続くとかね。

ただ、僕の場合は折角生まれてきたのだからと思っているし、本を読んだり、友達と会って議論をしたり、1日1回眠ることであるとか、飯を食うとか、みんな死ぬ準備なんだ、って15歳か16歳のときに思いました。朝、目が覚めたときに今日は何かやろうって起きるじゃないですか。それで一日が終わって家に帰ってきて、眠ろうとしても眠れないから、1,2時からその辺りをほっつき歩いて、疲れてやっと3,4時くらいに寝られる。眠りを死とすれば、その日一日のエネルギーを全部酸化させないと死ねない、一日単位でも。一日のエネルギーを全部使い切って、それで眠りがやってくる。使い切れないエネルギーが残っていると、夢の中に出てくる。また次の日もエネルギーが亡霊のように興ってくる。

それと同じように、やりたいこととか色々なエネルギーがあって、それを燃やし尽くしたときに恐らく死ぬんでしょうね。だから無論、肉体が壊れていくと、色々な妄執も壊れていくけれど。肉体も執念も似たようなもので中身は一緒で、化合物だから。ある意味では執念が強ければ肉体はそれに引きずられるし、執念が弱ければ肉体も酸化しやすくなる。病気になれば執念は弱くなるだろうし。そういう面でいうと、やっぱり折角生まれてきたのだから、自分の肉体にあるそういう執念のようなものを全部吐き出して、幽霊にならなくて済むように。(笑)幽霊って言うのは、燃やしきれなかった奴だね。(笑)

だからもうダメだって思って色々なことを捨てていくのだけれど、最後は自分の命も捨てるんでしょうね。