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8-1. 高さ制限 (9)

ここまで数種類の高さ制限について述べて来ましたが、感の良い方ならお気づきかも知れません、これら高さ制限に当てはまらない建物があるということを。例えば、六本木ヒルズや西新宿の超高層ビル群、あれらは普通に高さ制限をかけると成立しない高さを誇っていますが、現に建っています。これらの高さ制限を回避する幾つかの方法があります。
その1つは「総合設計制度」です。500m2以上という比較的大きな敷地に対して敷地いっぱいに建物を建てるのではなく、建物の足元に公開空地と呼ばれる一般の方が立ち入れる場所を整備することで、道路斜線や隣地斜線を緩和、つまり無くしても良い、という精度です。さらに容積率も上乗せすることが可能なので、開発側の事業としてメリットは大きいですし、一般市民も地上レベルの歩行空間が拡大するので、環境的に良くなるだろうと考えられています。
また、東京都の場合では都心の夜間人口の減少(ドーナツ化現象)への対応策として、総合設計制度で一定の割合以上を住宅とすると、さらに容積率を増加出来るという内容もあります。六本木ヒルズやミッドタウンなど大型の開発に併せて住宅棟がつくられているのはそのためなのです。

8-1. 高さ制限 (8)

「高度地区」の制限の内容をみてみるとかなり「斜線制限」に似通った内容となっています。「高度利用地区」という土地の高度利用を目的とした内容もありますが、主たる内容はほぼ「斜線制限」と変わりがないでしょう。

図8-1-2:高度地区(渋谷区)

図8-1-2:高度地区(渋谷区)

「高度地区」は都市計画法第8条によって定められていますが、この第8条ではその他、都市計画にまつわる地域地区についても位置づけています。本稿で度々言及している住居地域や商業地域といった「用途地域」もその地域地区の1つですし、景観地区、風致地区、防火地域と準防火地域なども、この都市計画法第8条によって定められています。
「用途地域」も都市計画法で定められてそれが「斜線制限」などに繋がっているので、「高度地区」の存在意義が分かり難いものとなっていますが、そもそも法の成り立ちとしてこれらは大きく違います。「斜線制限」はあくまでもその制限の内容は建築基準法で定められていて、その適用範囲を都市計画法に則るという話ですが、「高度地区」についてはその制限の内容が法文上では明確に謳われている訳ではなく、その対象となるエリアとともに各自治体によって定められます。そういう意味で、建築基準法で定められた画一的な制限内容から、より地域の事情を反映した制限内容にできるというメリットがあるのでしょう。

8-1. 高さ制限 (7)

図8-1-1:日影モデル

図8-1-1:日影モデル

このように単純なキューブ状の建物だと割と単純に影の形を追えますが、建物の形が複雑な場合や敷地の形状が不整形の場合、複数の用途地域にまたがっていて日影の条件が異なる場合など、現実の敷地ではかなり複雑な状況があります。その場合はトライ・アンド・エラーで検証しては、ダメならば建物を修正して再度検証、という作業を繰り返す必要があります。ただ、現在では「逆日影」という、日影規制に関して敷地の条件からどのような建物を建てることが可能なのか、というCADのプログラムがあり、それを援用することで複雑な敷地に対しても予めどの程度の建物が建てられるのかという予測が出来るようにはなっています。

さて、高さに関する制限の残り1つは「高度地区」と呼ばれるものです。今まで述べた規制が基本的には建築基準法に基づいた規制でしたが、「高度地区」は主に都市計画法に基づいて定められたものです。

8-1. 高さ制限 (6)

先週の「斜線制限」と「絶対高さ制限」のほか、建築物の高さ制限には「高度地区」と「日影規制」があります。
「日影規制」はその建物が周囲の敷地に落とす影を制限する規制なので、直接的に建物の高さだけを規制するものではなくて、建物ボリューム全体の形状やプロポーション、配置を含めて規制されるような内容です。具体的に規制される内容は用途地域ごとに建物の高さ日影になる時間などが異なります。1例ですが「第一種低層住居地域で軒高が7mを超える、または階数が3を超える建物が規制の対象になり、その内容は平均地盤面から1.5mの高さにおいて敷地から5m〜10mの範囲で3時間以上、影を落とさないこと」といった内容です。字面だけで見ると何だかよく分かりにくいですが、下図を見て頂ければ何となく想像が出来るかと思います。

図8-1-1:日影モデル

図8-1-1:日影モデル

今、画像の下側が北で敷地に白いキューブの建物が建っています。時間ごとにでる影のアウトラインを引いていますが、その影を測定している高さは地上から1.5mの箇所です。敷地から5mと10mのラインは角が丸まった四角形で図示されています。この図は1時間ごとの図なので、例えば9時から12時まで日影となっている箇所については、3時間以上は日影であり続けるということです。それを濃いグレーで、2時間のエリアを薄いグレーで描いています。この図では3時間以上のラインが5mの範囲を超えておらず、敷地より5m離れた範囲では3時間以上この建物によって影になることはないということで、制限をクリアした建物だと言えます。

8-1. 高さ制限 (5)

このように大きく3種類の斜線による高さ制限がありますが、2003年に「天空率」という考え方で斜線制限の緩和が受けられるという条項が建築基準法に追加されました。
天空率とはある地点に半球を置いた時に、半球の中心から建物の外形ラインを結ぶことでできる半球上のシルエットの割合のことです。例えば、東京タワーの足元に立った時には圧迫感を感じるものですが、遠くから見ている分には殆ど圧迫感は感じません。それは対象物の絶対的な大きさというよりも、観察者の視点を中心とした相対的な大きさが心理的な圧迫感には大きく影響するということです。
斜線制限については、例えば敷地いっぱいに建っている建物の上部が斜線によって切られていれば、それはそれで法規に準じていますが、むしろ建物の平面をスリムにして斜線を超える建物の高さが建っていたとしても、敷地内に空地をとっていた方が環境としては快適な場合も多々あります。そういう考え方に適応できるのが、天空率という発想です。具体的な運用に付いてはとてもテクニカルで、専用のCADソフトを使って計算をしたりするのですが、天空率の導入によって都市における建物ボリュームのあり方が広がったと言えるでしょう。