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4-14. 窓 (1)

4. オフィスビルの部分

以前にも書いたことがあるかもしれませんが、「建築」の定義の一つとして「空間や場所を隔てること」ということが考えられます。置き家具などと比較すれば分かりやすいかもしれませんが、家具はある空間の中にあるものであって、現象として空間の質を変容させる可能性はありますが、空間そのもののかたちなどを変えることはないかと思います。
例えばキャンプ場にテントを張るとします。そうするとテントの内側である「内部」とその外側である「外部」が必然的にできることになり、これはれっきとした建築行為であると言っても良いでしょう。しかし、その三角錐の形状をしたテントの中に土がいっぱいに詰まっていてその中に入れないとしたら、そのような物体(土入りテント)をキャンプ場に置くこと(それはもはやテントを「張る」とは言い難い)は建築行為であるとは言い難いところです。なぜならそこには「内側」が存在しないことになり、つまり相補的な関係である「外側」もないことになるからです。それならばピラミッドはどうでしょうか?ピラミッドは教科書的な西洋建築史の最初期に書かれているもので、西洋建築のルーツとして位置づけられている立派な建築物です。しかし、内部は殆どなく、非常に大きな三角錐のボリュームの中に相対的には微々たる内部空間が作られている程度です。ここで形は相似形であるし、僅かな内部空間があるからテントと同様の意味で建築であるとは言えないでしょう。ピラミッドの場合はその規模の大きさから、身体のスケールを超えてそのモノのこちら側とあちら側を分けている、簡単に言えばあちら側が見えない、というレベルで空間を分断しているので、それは立派な建築だと考えられているのではないでしょうか。

図4-14-1:ピラミッド

図4-14-1:ピラミッド

9-4. NEWS X (9)

このような周辺環境を受け止める形でこのNEWS Xは設計されています。積極的に外に向かって開いて、一般的には基準階が積層されるオフィスビルのインテリアを周辺環境と柱、サッシのリズムによって、階を跨いでインテリアが多様になるように意図しています。下に10階から2階までの同じアングルの写真を並べてみます。

図9-4-5:10F

図9-4-5:10F

図9-4-6:9F

図9-4-6:9F

図9-4-7:8F

図9-4-7:8F

図9-4-8:7F

図9-4-8:7F

図9-4-9:6F

図9-4-9:6F

図9-4-10:5F

図9-4-10:5F

図9-4-11:4F

図9-4-11:4F

図9-4-12:3F

図9-4-12:3F

図9-4-13:2F

図9-4-13:2F

この写真の角度では分かりづらいですが、10階では斜めの柱がまとめることによって、コーナーと正面から景色が抜けるようになっています。これは10階においては完全に廻りの建物の頭越しに空所があるので、最大限それを享受しようという意図があります。それが9階になると比較的均等に柱が分布しているためにあまり特定の方向性が感じられず、全方向に均等に向いているような感じです。8階になるとコーナーに柱が集まってきているので、正面性が非常に強くなってきています。このフロアまでは空所をそれぞれ違う形で占有しようと考えています。
その下、7階から4階までは徐々に建物に囲まれてくるので、向かって右側の開口も小さくなり、左側も隣の建物の窓が迫っているためにフィルムで視線を遮っています。純粋に正面だけに開く格好になっていますが、先述の通り向かいの建物が斜線制限で段状にセットバックしているので、階毎に前面との距離が変化していくのが良くわかります。
2、3階では今度は向かって左側は開口部として抜けていて、また正面の建物の重厚な石の作りを借景しています。2階では足下まで広がる開口部が前面の道路との距離を縮めて、とても街に近い環境を作り出しています。また斜め柱の角度も他の階よりきつく、柱の存在感が生々しい者となっています。
このように開口部と柱によって、単純な基準階が並びがちなオフィスビルに周辺環境と相応する多様性を伴ったインテリアとしています。

9-4. NEWS X (8)

本稿の前半に敷地周辺の古地図などを参照しましたが、古くよりこのエリアはきれいな長方形のグリッドで街が区切られていました。街路は当時のまま現在も残されており、敷地の分割も長方形の長手がそれぞれ道路に面する形で南北に分筆されているところが殆どです。つまり道路に対する間口はそれぞれ違うのですが、敷地の奥行きは概ね同じようになっています。
このエリアは用途地域としては商業地域に指定されていて、隣地斜線は31mの立上がりの後に1対2.5の斜線がかかります。一方で道路斜線はというと、長方形の街区の長手が面している道路幅員が8mということがあり、セットバック無しだと接道面で高さが12mとなります。容積率は700%や800%という数字が設定されていて、かなりの容積が取れる設定なのですが、道路斜線がどうしてもかかってきてしまうので、手前で3〜4階、奥に向かって徐々に高くなり、6階建て程度の高さの建物が並ぶような建築基準法の枠組みになっており、結果まさにそのような街並が広がっています。

9-4. NEWS X (7)

何はともあれこのような形で、32mの高さのうちに階高3mで10層を入れることに成功したのですが、前述の通り地区計画が出来たのは20年ほど前なので、周辺には地区計画適用後の建物よりも適用前の前面道路斜線で建物が切られている建物が立ち並んでいます。敷地は鍛冶橋通り、昭和通り、中央通りといった広幅員の大通りに囲まれた街区で、それらに面した建物はそれこそ地区計画で50mの高さまで建てられるといったこともあり、高層の建物に建て変わっています。現に今でも明治屋の敷地での再開発が行われています。

図9-4-4:10階から外を見る

図9-4-4:10階から外を見る

これらの高層の建物に囲まれるような形の街区は、内側に入ると前面道路が概ね8m程度だったりするので、5,6階建ての古いビルが並んでいる状況です。当然なのですが、その上空は空いている訳です。そのような周辺の状況の中で32mの高さのビルが頭一つ抜け出しているのがNEWS Xで、室内からの眺望は8階以上の階では周辺の建物の頭越しに大きなスペースを占有しているかのようです。このような空いた空間を「空所」と名付けています。土地が空いている場合の空地に対して、上空で空いた空間を「空所」と位置づけています。このような空所はあくまでも現時点での都市環境の中に出来ている(あるいは建物が出来ていない、ともいえる)暫定的なものですが、現在の敷地のポテンシャルとして多いに利用し得るものでもあります。

9-4. NEWS X (6)

このような構造設計のスタディを経て、1階を4本柱とし、2階梁を高さ800の大梁として、その上部は柱径216φ、梁成400とする構造の大きな骨格が出来上がりました。とは言え、この骨格に天井カセット式の空調室内機を吊ったり、普通に床スラブを打ってしまうと依然として階高3mに対して天井高が低くなってしまいます。ここで一般的に梁の高さの懐内に納まっているものを納めて、納まっているものを外に出してしまうという逆転の発想を考えています。
即ち、一般的に梁の上に乗せるデッキスラブを梁の懐内に納めてしまいました。そうすると実は梁の天端まで耐火を施さなくてはならないのですが、オフィスの場合いずれにせよOAフロアで上げ床をしているので大きな問題にならないだろうと判断しました。また空調室内機はその床スラブ内に納めることを止めてエレベーターホールの天井裏に吊って、ダクトを接続して室内に横から吹き出すことにしています。そしてエアコンの給気に対して、窓廻りの足下にスリットを設けて、これまたOAフロアの下のスペースを利用したリターンとすることで空調も成立させました。さらに梁同士のジョイントについては、下フランジを溶接としてボルトヘッドが天井仕上げを邪魔しないようにしながら、天井をギリギリのところで納めて、最終的に階高3mに対して、天井高さ2.45m、つまりスラブ内を550mmまで抑えることで、室内の規模に対しては十分な天井高さを確保することが出来ています。