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4-14. 窓 (11)

ここまで引き違い窓=日本の対立項として、開き窓=西欧として位置づけていました。開き窓の場合は英語では[casement]あるいは[hinged window](=蝶番付き窓)になります。ここで想定していたのはいわゆるフレンチウィンドウです。いわゆる観音開きの窓と考えれば良いでしょうか。

図4-14-9:フレンチウィンドウ

図4-14-9:フレンチウィンドウ

引き違いと同じく2枚の障子から成りますが、両サイド鉛直方向に軸があり、軸を中心として内側に開く構造です。西洋の古くからの街並ではほとんどがこのタイプの窓ですので、街並のリズムをつくる最たる要素だと言っても良いかと思います。この開き方の場合、引き違いに比べると気密性が高く、つまりすきま風が少ない作りです。窓の作り方としては、水の浸入を防ぐための返しをつくれない内開きは不利に思えますが、水密性ももちろん引き違いに比べると高いので、障子にかかった水が外に出るように、障子が当たる下枠の上に枠の外に水を流す部材を付けているだけで、水の処理をしているものが多いです。もちろん日本に比べて雨が少ないので、雨漏りに対してシビアではないという部分もあります。(あるいは古い建物が多いので雨漏りはするものだと割り切っていて、そこまで雨漏りに厳しくないというところも一方の事実としてあるように思います。)

4-14. 窓 (10)

少し話が逸れるかもしれませんが、引き違い窓に関して言えば、その障子の動き方が開き系の窓とはずいぶん違った挙動だと考えられます。伝統的な日本建築の場合、ガラスが建具に使われるようになったのは近代前後のことだと思われます。それまでは、障子(この場合は伝統的な日本建築で言うところの障子)や襖に使われるような紙や雨戸に使われるような木がグレージング部において主たる材料となっていました。特に西欧と違うのは紙を使うことで、現代的な感覚で言えば断熱性能が極めて低く、冬のことを思えばとても寒々しい素材です。意匠的にはうっすらと外光を取り入れることはできるので、デメリットだけの素材という訳ではありませんが。いずれにせよ、そのような極めて軽い素材を建具に使用するということは、建具が軽くなるということです。一方で西欧は古代から窓にガラスを使用していましたが、それは単純に紙と比較してしまえばとても重い素材です。ここで引き違い窓の開き方を考えた際に、もし障子に分厚いガラスが嵌められていて思いものだとしたらスライドして開けるということが、それほど容易ではないということは想像に難くありません。よくよく思い出してみると、普通に使われている木と比べて、障子に使われている木は何となく柔らかくて軽いものだったと思えないでしょうか。一方で西欧的な回転系の開き方を考えると、多少障子が重かろうが軸を中心として容易に回転できます。さらにこの場合、高さ方向が長く幅が狭いとモーメントが小さくなるので開き易く、一方で幅が広いものはモーメントが大きくなるので開けるのが大変になるということも想像していただけると思います。つまり西欧的な間口が狭くて高い建具(窓、扉)は回転系の開き方に対してはとても有効で、一方で日本的な間口が広く、軽い建具は回転系というよりもスライド系の開きをした方が有効であるということが力学的にも理解できます。

4-14. 窓 (9)

また別の水準での窓の分類を考えると、開き方ということがあります。この開き方に関しては、扉と重複することが多いです。
まずは開く窓に対して、開かない窓である「嵌め殺し窓」[fixed window]が考えられます。えらい物騒な名称に聞こえますが、建築の言い回しで「殺す」というのに「動かない」という意味があります。嵌めて動かなくした窓だから嵌め殺し窓という訳です。開かないので当然通風は期待できませんが、採光や眺望は期待できます。高層ビルなどで窓からモノを落としてしまったりすると危険なので嵌め殺しにしている場合やホテルなどでは飛び降り自殺防止のために嵌め殺し(あるいは少ししか開かない窓)にしている、という理由も現実的にはあったりします。
また「引き違い窓」[double-hung window]は日本では住宅などでもよく用いられるよくみる開き方のパタンです。というのは、欧米の建築では日本ほど一般的に引き違い窓が流通していません。はっきりとした理由は分かりませんが、恐らく歴史的に木造で在来構造が主流で、1間(長さの単位、1間=6尺)を単位としたスパンで柱が並ぶので、その距離を全て建具としてつくれるのに対して、西欧の建築では石を積んだ壁構造が主流で、開口部の上はその上の荷重を受けるマグサのスパンで開口部の幅が決まりました。当然、石の壁の荷重を受けるマグサは長い距離を飛ばすことが出来ずに、必然的に縦長の窓になりました。引き違い窓にする場合には左右に障子を動かして、障子を互いに重ねる形で開けることになるので、スパンの半分しか実質は開きません。こういったことで西欧の近代以前の建築には引き違い窓が向いていなかったという事実があるかと思われます。逆に日本建築では十分にスパンが取れているので、引き違いにして半分しか開口部として利用できなくても、それで十分であったと考えられます。あくまでも想像ですが、そんな建築のバックグラウンドが未だに窓の開き方のスタンダードとして息づいているのかもしれません。

4-14. 窓 (8)

建築の内外の関係を取り持つ要素として窓があるということを先述しましたが、窓の有り様によってその関係の取り持ち方はずいぶんと違うものです。そこで窓自体の構成とその素材などを考えてみようと思います。
ここで前提として窓の構成を考えておきたいのですが、窓に向かって見て内側から、ガラスなどに相当するグレージング、その枠であるサッシュ(あるいは障子)という3つの要素に大きく分けて考えることが出来るかと思います。グレージング部分にガラスがなくても窓と言っても良いでしょうし、枠が見えない(あるいはない)ものでも、要するに壁に穴が穿たれていれば窓として考えてよいところでしょう。
さて窓の種類の区分として、設計図上では枠の素材が一番大きな分類をする要素となります。これは工種が素材によって違うからです。設計図上ではSW, AW, STW, WWなどと記号で表記されるものは、それぞれスチールサッシ(SW)、アルミサッシ(AW)、ステンレススチールサッシ(STW)、木サッシ(WW)といったところです。これらの違いは意匠的なことはもちろんとして、窓としての性能が大きく違うと考えてよいでしょうか。アルミサッシの場合は工業製品で、型押出しで成形される製品なので精度が高いので、気密性や水密性に優れると考えてよいでしょう。一方で木サッシは木の材性が場所によってばらつきがあることもありますし、湿気などで反りなどが出てきて動く個所だと立て付けが悪いと動かしづらいということもあるかもしれません。しかし、材料自体はアルミやスチールに比較すれば熱貫流率が低いので、断熱性能には優れていると言えるでしょう。

4-14. 窓 (7)

ここまであまり窓らしい窓の話が出来ていませんが、ビルディングタイプとしてしっかりとしたインテリアをつくるものを考えてみたいと思います。ローマ人の都市の中で特徴的な建物の一つに公衆浴場というものがあります。字面だけみると銭湯のように思えますが、当時のローマ人たちはそこで1日の何時間も過ごし、入浴する前には必ず運動をして汗をかきそれを流すといったように、日々の生活の一部として存在していたようです。そこには貧富の差は存在せずに、読書、議論などが行われた社交の場でもあったようです。
さて浴場なので当然裸になるのですが(サンダルは履いていたようです)、さすがにそういう場所には屋根を架けて屋内化しておかないと冬は寒いでしょうし、何かしら不都合が出てくるでしょう。そして社交の場としての規模が必要だということで、外とのつながりが出入口だけという訳にもいかなかったようで、遺跡から想像した内観のスケッチなどを見てみると壁に穿たれた窓から象徴的な光が落ちてくる様子が想像できます。

図4-14-8:公衆浴場

図4-14-8:公衆浴場

ガラスの稿でも先述しましたが、浴場の窓にはガラスが嵌められていたそうです。ガラスを溶かして流し固めたものだそうですが、採光の一方で暖めた室内の熱が外に逃げないようにということから、窓にガラスが嵌められたのだろうと想像できます。