3-4. 近代日本のオフィスビル (8)

図3-4-9:旧千代田生命本社ビル

図3-4-9:旧千代田生命本社ビル

前述のパレスサイドビルとほぼ時を同じくして、1966年に建てられたのが村野藤吾設計の上図、旧千代田生命本社ビルです。元々は千代田生命の本社ビルとして建てられたものの、2000年に倒産したことを受けて目黒区が建物を引き受けて、大規模な改修を経て2003年からは目黒区役所庁舎として使われています。前述のパレスサイドビルでは当時としては構成的な新しさが表現の水準でうまくマッチしていたのに対して、こちらの村野藤吾の作品はどちらかと言えば建築家村野藤吾らしい表現主義的な作風、端的にいえば艶っぽさが魅力の大きな部分を占めるように思えます。上図の外観を「竣工当時の周辺の街のスケールに合わせた表現である」と解釈している方もいらっしゃるようですが、それよりもやはり目が眩むようなPCフレームの反復をファサードの表現としていると見た方が素直なように思えますし、インテリアの階段の表現を見てもやはり村野好みが存分に発揮されているとしか見えません。

図3-4-10:旧千代田生命本社ビル階段

図3-4-10:旧千代田生命本社ビル階段

図3-4-11:旧千代田生命本社ビル茶室

図3-4-11:旧千代田生命本社ビル茶室

ちなみに目黒区役所となった今でも、オリジナルの茶室が保存されており、区民利用されているほか、建築ガイドツアー時に見学が出来るようです。
一般的にオフィスビルというと、あまり作家性が強すぎずニュートラルでドライな建築が多いように思いますが、築50年近くを経て、このような村野藤吾の好みが強く出た建物でも元発注者から受け継がれて、現在でも区役所が引き続きオフィスとして使い続けていることを考えると、自らが抱くオフィスビルという枠組みから少し発想をズラしていくよい参考例なのかもしれません。

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