6-2. 椅子 (5)

ルネサンス期になり絵画に遠近法が取り入れられたこともあり、写実的な表現から当時の椅子の様子を窺い知ることができます。

図6-2-8:DurerのSt.Gerome

図6-2-8:DurerのSt.Gerome

アルブレヒト・デューラーは15世紀後半から16世紀に活躍したドイツの画家です。上図は聖ジェロムの書斎の室内風景を描いた作品ですが、とても質素な4本足の椅子が描かれています。全てシンプルな板でできていて、座面は真っ平らの四角、足と背もたれはそれぞれ傾けられて座面に接合しています。座布団が結びつけられていますが、これはまだ座や背もたれにクッションを据え付ける技術が発明されていなかったからです。(それが発明されるのは17世紀のことです。)

図6-2-9:Boschの快楽の園

図6-2-9:Boschの快楽の園

また、際立った表現としては、ヒエロニムス・ボッスの「快楽の園」に描かれた上図の椅子です。この絵自体が写実性からは程遠い、化け物が闊歩する世界を描いたものにせよ、右に描かれている人を飲み込まんとしている鳥のような怪物が座っている椅子は極めてモダンなデザインに見えます。円形の平面に座面から肘掛けまでの円筒型、それを支える3本足といった構成は当時の家具のタイプからすると大きく逸脱しています。このような椅子が当時にあったとは思えませんが、そうするとボッスの想像力たるや凄まじいものを感じます。

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