6-2. 椅子 (6)

先に権力の象徴としての椅子、即ち玉座について少し触れました。その様な椅子のことを「グレイト・チェア」と呼びますが、複数枚製作されているルネサンス期のフラ・アンジェリコによる受胎告知[annonciation]を比べて見てみると、その意味が分かり易いかと思います。

図6-2-10:Annonciation1

図6-2-10:Annonciation1

図6-2-11:Annonciation2

図6-2-11:Annonciation2

図6-2-12:Annonciation3

図6-2-12:Annonciation3

聖母マリアに大天使ガブリエルがイエスをお腹に宿したことを伝えているシーンで、外部に面した建物の下で、画面に向かって右側にマリアが椅子に座って、左側にかがみ込んだガブリエルが受胎告知をしているという、3枚共に同じ構図が取られています。しかし、1、2枚目が豪華な雰囲気があるのに対して、3枚目はとても簡素、質素な印象をうけます。1,2枚目については、ガブリエルのピンクの衣装やマリアの青と赤の鮮やかな衣装に合わせるかのように、マリアの座る椅子には非常に高い背もたれが着いていて高価な布地でカバーされています。一方で3枚目はガブリエルとマリアが簡素な白の服を着て、座っている椅子も簡便な丸いスツールのみとなっています。背景となっている建物部分もそうですが、洋服とともにこのように高い椅子の背もたれはそこに座る人の格を象徴して、絵全体の印象をつくっていると言えるでしょう。

最新記事40件を表示