5-4. カーペット (5)

このようにカーペットそのものは先史時代から存在していたと推定されますが、実際のところどのように使われていたかをみるには、そのものが現存することもさることながら、それが絵画などに描かれていると当時の様子が分かるものです。

図5-4-3:ジャン・ドゥ・ブシコの時禱書

図5-4-3:ジャン・ドゥ・ブシコの時禱書

時禱書とは中世の装飾画本でキリスト教の聖務日課を記したもので、上図のものは1408年頃に描かれたとされています。右手にいる将軍がサン・カトリーヌに祈りを捧げている場面です。ルネサンス以前のフランドルの絵画では度々、重要な人物が大きく描かれて、重要度が低い人物は、実際はどうあれ相対的に小さく描かれます。つまりこの絵において、サン・カトリーヌは祈る対象であり、絵の主題であるということですが、彼女の背後には天蓋まで連続するタペストリーの装飾がされることによって、彼女の立場を象徴しています。(足元には絨緞ではなくクッションが置かれています。)ところでこのタピストリー[tapestry]という言葉は英語ですが、フランス語で言うところの[tapisserie]です。カーペットのことは[tapis]ですので、つまり床に使われるか、壁に掛けられるかによって言い方を少し変えているだけで、モノとしては同じものです。絵に戻りますが、祈る将軍の方にはtapisもtapisserieもありません。
当時としてはこのようなカーペットは相当高価なもので王侯貴族しか手に入れることは出来なかったでしょう。そのような品は宝飾類と同じく、彼らの権威を象徴するものとなっていることが想像されます。その象徴的な例が下図です。

図5-4-4:Jean Fouquet

図5-4-4:Jean Fouquet

15世紀のフランス人画家Jean Fouquetが1286年6月5日にイギリス王エドワード1世がフランス王フィリップ4世に謁見した際の場面を描いたものです。室内を覆い尽くすのは青字にユリの紋章を金糸で織り込まれたフランス王家を象徴する織物です。そこで跪くエドワード1世はこのときに領有を争っていたアキテーヌとガスコーニュの領主となるものの、フランス王に臣従するという和睦がなされています。ここではカーペットおよびタペストリーが明らかにフランス王家の権威を象徴して、そこに包まれるエドワード1世という構図が成り立っています。

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