5-4. カーペット (9)

ところで権威の象徴としてカーペットやタピスリーが扱われていた例を先に述べましたが、現代においてもカーペットが特殊な意味をもつ場面があります。それは「レッドカーペット」です。
先日、イギリスのフィナンシャル・タイムズで、「中国の李克強首相の訪英前に、中国側が『李首相を迎える際、ロンドン・ヒースロー空港に敷かれるレッドカーペットが標準に達していない』とクレームをつけた」という記事が掲載されたそうです。一般的にぱっと想像するのはアカデミー賞の授賞式などで、俳優が会場に入る際に入口から車の乗降口まで敷かれるものですね。

図5-4-8:アカデミー賞

図5-4-8:アカデミー賞

これらの例は要人を迎える、歓迎の姿勢を表現するためのもので、権威の象徴としてのカーペットに近いニュアンスのものです。ただ、なぜ「レッド」カーペットかというところは、ひとつの起源が通説のようです。時代は古代ギリシアまで遡って、紀元前458年にアイスキュロスによって書かれた「アガメムノン」の内容に入ります。
アガメムノンがトロイ戦争から戻ってきた時に、妻であるクリュタイムネストラが彼に赤い道の上を歩くように進めたところ、そのような豪華な道の上を歩けるのは神々だけだ、として断ったという逸話があります。そこでは明らかにカーペットとは書かれていないものの、その後「赤い道」をつくるためにレッドカーペットがつくられたと解釈することはできます。

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