5-6. 壁紙 (5)

さてこれらの壁紙のデザインですが、先に示した通り当初はデューラーが描いたようなものや、タピストリーの代替品らしくタピストリーのデザインを引用したものが多かったようですが、18世紀には絵画のような色が鮮やかでパノラミックな壁紙が作られるようになりました。

図5-6-5:savages de la mer pacifique

図5-6-5:savages de la mer pacifique

上図は1804年にフランスで製作されたものでsauvages de la mer pacifique(太平洋の未開)と題されたものです。壁紙ではありますが絵画のようなのでpaper paintとも呼ばれ、壁紙というよりももはや壁画と考えてよい代物です。
このような流れの中で現代の壁紙のルーツを作ったと考えても良さそうな人物が、アーツ・アンド・クラフツという運動を展開したウィリアム・モリスです。産業革命以降、粗悪な工業生産品が世の中に出回るようになりましたが、そのような状況に対して中世以来の手仕事による工芸を復興させ、生活と芸術を統一しようという目的で活動したのがアーツ・アンド・クラフツです。それ故、対象となるものは生活に身近なもので、書籍や家具、ステンドグラスなどとともに壁紙のデザインがひとつの運動の対象となりました。

図5-6-6:ウィリアム・モリスの壁紙

図5-6-6:ウィリアム・モリスの壁紙

具体的には動植物をモチーフとした柄で同じパタンを繰り返すものです。壁紙に限らずアーツ・アンド・クラフツでデザインされたものは現在でも古びない洗練されたもので、その後のアール・ヌーボーの運動に大きな影響を残したと言われています。

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