5-7. 鉄 (9)

産業革命を経て、まずは橋に鉄が使われるようになりました。なぜ建築物にすぐに使われるようにならなかったというと、以前も「ビルディングタイプ」の稿で述べていますが、多くの既存のビルディングタイプに対して組積造の建築のもののあり方が、あまりにも鉄の存在と距離が遠いものだったからと言うことに尽きると思います。端的に言えば、鉄を見たときに発想が建築物に及ばなかったのだろうということだと思います。それほど建築とうい概念は近代以前においてはある意味で固定的だったのだと想像できます。
一方で19世紀には産業革命以降の産業構造の変化に伴って、新たなビルディングタイプが登場してきました。恐らく当時の人々はそれらを建築物とは見なしていなかったでしょう。だからこそ、そのような新しいタイプに対して新しい素材である鉄が使われるようになったのだと考えられます。土木構造物で言えば先述のアイアンブリッジに始まり、1889年のパリ万博に合わせて建設されたエッフェル塔などが有名なものですが、建築では恐らくロンドン博覧会の際に建てられた水晶宮(クリスタル・パレス)が初期の鉄骨造建築での最も有名な例のひとつに挙げられるでしょう。

図5-7-6:水晶宮外観

図5-7-6:水晶宮外観

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